(ブルームバーグ):数カ月にわたり関税措置や防衛費負担を巡る圧力を受けてきたアジアの米同盟国には、トランプ大統領を警戒する理由が十分にあった。だが、トランプ氏は今回のアジア歴訪を通じ、米国は引き続き同盟国を支えるという明確なメッセージを打ち出した。
トランプ大統領は米国が韓国と「強く結ばれている」と述べ、総額3500億ドル(約54兆円)の投資計画を巡る韓国側の懸念に対応したほか、原子力潜水艦の建造も認めた。日本では高市早苗首相に「日本のために私ができることがあれば、私たちは必ず応えると伝えたい」と語り、中国の習近平国家主席との会談では、台湾に対する米国の関与を弱める発言を控えた。

トランプ氏はまた、これまで中国側に傾きつつあるとみられてきた東南アジア諸国との関係修復にも動いた。カンボジアやマレーシアとは貿易合意に署名し、タイやベトナムと枠組み合意に至った。
マレーシアのアンワル首相はトランプ大統領との会談について、「信頼と友情、そして関係強化へのコミットメントは予想以上だった」と話し、トランプ氏から贈られた大統領記念コインを手にブルームバーグの取材に応じた。
もっとも、こうした表向きの融和ムードにもかかわらず、アジア太平洋各国は高コスト化した米市場アクセスと予測困難な外交スタイルという「トランプ2.0」の現実と向き合わなければならない。
一方、中国側も存在感を示した。習主席は11年ぶりに韓国を訪問し、2017年以来となるカナダ首脳との公式会談を行ったほか、高市首相とも会談した。習氏はサプライチェーンの安定化と地域経済統合の深化を呼びかける一方、李強首相は東南アジア諸国との貿易協定を拡大した。
英王立国際問題研究所(チャタムハウス)でアジア太平洋プログラムのアソシエートフェローを務めるビル・ヘイトン氏は「東南アジアの支持を得たいなら、米国は敵対姿勢を和らげ、建設的な関係を築こうとする態度を示す必要がある」と語る。
トランプ大統領は今回、これまでの強硬な態度を抑え、友好や儀礼を前面に出した。東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会合に出席したマレーシアでは、歓迎を意を示した地元のパフォーマーと短く踊り、米国とマレーシアの国旗を振って周囲を沸かせた。
日本では高市首相とともに米空母を視察し、高市氏がこぶしを上げて兵士の歓声に応える場面もあった。韓国では、カナダとの最近の摩擦を脇に置き、カーニー首相と「とても良い会話」をしたとトランプ氏は述べた。習主席との会談では記者団とやり取りをせず、本題に集中した。

だが、ヘイトン氏はトランプ氏のアジアに対する関心について、全面的な関与とは言い難く、「中国側の動きとは比較にならない」と話す。
トランプ氏は2つの首脳会議の主要セッションには参加せず、マレーシアを早々に離れて重要な地域討議を欠席し、続く韓国でも10月31日、11月1日に開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を前に帰国した。
先月30日に行われた習主席との会談は、米中が関税や輸出規制を巡り対立を深める中で実施された。米商務省が半導体製造装置に関する制限の強化を発表したのに対し、中国はレアアース輸出に広範な規制を課して報復した。
結果として両国は、戦略分野での相互依存を一段と減らすため、1年間の休戦で合意した。全ての問題が解決したわけではないが、トランプ大統領が習氏の招きで来年4月に中国を訪問する計画は、関係の安定化に一定の勢いをもたらしている。
ワシントンの対中強硬派の間では、トランプ氏が国家安全保障関連の制限をさらに緩め、エヌビディアの先端半導体の輸出を認めたり、台湾支援を後退させたりするのではないかとの懸念が出ていたが、いずれも現実には起きなかった。

各国はトランプ大統領を手厚くもてなした。日本では故安倍晋三元首相が使用していたパターや金色のゴルフボールがトランプ氏に贈られ、韓国からは金の王冠が贈呈された。また、タイとカンボジアの国境紛争の和平式典では主宰する機会も与えられた。高市首相はノーベル平和賞候補にトランプ氏を推薦する意向を示した。
ただ、全てが順調だったわけではない。インドのモディ首相はトランプ氏との会談を回避するため、ASEAN関連会議への出席を見送ったと、ブルームバーグは報じた。
米ジャーマン・マーシャル財団でインド太平洋プログラム担当マネジングディレクターを務めるボニー・グレーザー氏は、「トランプ政権下の米外交はオーソドックスとは言えない。今回のアジア歴訪も、より伝統的な外交への転換を示すものではない」と述べた。
原題:Trump Plays Nice With Asian Allies Stung by Repeated Threats(抜粋)
--取材協力:Sudhi Ranjan Sen、村上さくら、Soo-Hyang Choi、Kok Leong Chan.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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