国の「生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の削減」に関する目標
(1) 健康日本21における位置づけ
厚生労働省は、1日当たりの純アルコールが、男性で40g以上、女性で20g以上を生活習慣病のリスクを高める飲酒量として定め、適量の飲酒を推奨している。
2023年度まで実施されていた「健康日本21(第二次)」の最終評価によると、生活習慣病のリスクを高める量の飲酒をしている人の割合は、男性が目標の13.0%に対して、2010年度の15.3%が2019年度に14.9%(年齢調整値15.2%)、女性が目標の6.4%に対して、2010年度の7.5%が2019年度に9.1%(年齢調整値9.6%)と、男性では横ばい、女性では上昇しており、いずれも目標を達成していない。
2024年度から開始した「健康日本21(第三次)」では、現行の目標(男性13.0%、女性6.4%)を目指すことと、2032年度に男女あわせて10.0%にまで低下させることを目標として掲げている。
厚生労働省は「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」や「習慣を変える、未来に備えるあなたが決める、お酒のたしなみ方(男性編/女性編)」を公表し、がん、高血圧、脳出血、脂質異常症などの発症リスクは、1日平均飲酒量に伴いほぼ直線的に上昇することや、虚血性心疾患、脳梗塞は、ある閾値を超えるとリスクが上昇することを紹介するなど、適正な飲酒の周知を行っている。
(2) 国民健康・栄養調査でみる飲酒量のとらえ方
健康日本21(第三次)における評価では、厚生労働省による「国民健康・栄養調査」の飲酒頻度と飲酒量に対する回答を使って、男性は「週5~6日以上×2合以上」「週3~4日×3合以上」「月1~3日/週1~2日×5合以上」のいずれかに当てはまる場合、女性は「週3~4日以上×1合以上」「週1~2日×3合以上」「月1~3日×5合以上」のいずれかに当てはまる場合を「生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している(以下、「リスクが高い量の飲酒」とする。)」として判定している。
また、同調査では、リスクが高い量の飲酒とは別に、週に3回以上飲酒し、飲酒日1日当たり1合以上を飲酒する場合を「飲酒習慣がある」と定義して継続的に集計している。
本稿では、男女それぞれのリスクが高い量の飲酒をしている割合と、飲酒習慣がある割合の推移をみながら男女の飲酒の特徴をとらえていく。
男女の飲酒実態
男女それぞれについて、リスクが高い量の飲酒をしている割合と、飲酒習慣がある割合の推移を見ると、リスクが高い量の飲酒をしている割合は、冒頭で紹介したとおり男性では横ばい、女性では上昇している。
飲酒習慣がある割合も同じような傾向があり、男性では2010年の35.4%から2023年の32.1%と横ばいで推移しており、女性では2010年の6.9%から2023年の8.9%に上昇している。
男女を比べると、飲酒習慣がある割合も、リスクが高い量の飲酒をしている割合も男性が女性を上回る。
男女で異なるのは、男性は、飲酒習慣がある割合がリスクが高い量の飲酒をしている割合の2倍以上の水準で推移しているのに対し、女性は、飲酒習慣がある割合の方が低く、両者が拮抗している点である。
男女とも、飲酒習慣がある割合は、中高年で高く、男性は60~69歳、女性は50~59歳がもっとも高い。リスクが高い量の飲酒をしている割合も中高年で高く、男性では40~49歳、女性では50~59歳がもっとも高い。
年齢群団別にみても、男性は飲酒習慣がある割合がリスクが高い量の飲酒をしている割合を大きく上回り、女性は両者が拮抗していて、リスクが高い量の飲酒をしている割合が飲酒習慣がある割合を上回るか同程度となっている。
男性の20~29歳と70歳以上、女性の70歳以上は目標をクリアしているが、男性の30~69歳、女性の69歳以下は目標を上回ってリスクが高い量を飲酒している。
男女を比較すると、飲酒習慣・リスクが高い量の飲酒ともに男性が高い傾向があるが、特徴的なのは両者の関係性である。
男性では、飲酒習慣がある人のおよそ6割が「適量」範囲にとどまっているが、女性では、今回の定義によれば、飲酒習慣があると、リスクが高い量の飲酒をしていることにもなる。
男女とも、飲酒習慣がなく、時々リスクが高い量を飲酒する人が存在する。そのため、女性ではリスクの高い飲酒をする割合が、飲酒習慣がある割合を上回っている。
なお、飲酒習慣がなく、時々リスクの高い飲酒をする人の割合は、性・年齢群団でみて最大2~3%程度で、若年で高い傾向がみられる。
改善に向けて
中高年は生活習慣病リスクが高まる年代である。
男性の飲酒習慣は60~69歳に向けて増えているが、リスクが高い量の飲酒は40~49歳をピークとして、以降は適量である割合も増えていくようである。
男性は、これまでの推移をみると、飲酒は、就労時期に多く、退職を挟んで減少していく傾向があるため、就労世代から飲酒の生活習慣病への影響を周知し、適正な頻度や量に調整することが改善策として有効である。
一方、女性も50~59歳に向けて飲酒習慣は増えていくが、女性は少量でも健康影響が出やすいため、飲酒習慣の増加に応じてリスクが高い量の飲酒を避けるよう意識づけることが特に重要となる。
女性の飲酒習慣やリスクがある量の飲酒が増加傾向となっている理由の1つに、女性の社会進出によって飲酒機会が増えたことが考えられている。
しかし、中高年における就労率や飲酒率はこれまで男性ほど高くなかったため、退職などライフステージによる飲酒量の変化に関する研究は十分ではない。
また、厚生労働省の「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」によれば、男性の健康リスクに関する研究は多く蓄積されているが、女性の健康リスクに関する研究はまだ少ない。
女性のライフステージによる飲酒頻度や量の変化や、女性の健康リスクに関する研究の蓄積が必要となるだろう。
また、若年層では飲酒習慣が少ないものの、時折リスクが高い量を飲む人が存在する。若年では、生活習慣病への不安は少ないと思われる。
したがって、若年層に対しては、改めて飲酒のリスクや男女で影響が異なることを周知したうえで、「1回の飲酒量を適切にする」ことを伝えていく必要があるだろう。
※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
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