(ブルームバーグ):ダン・ハーレー氏が創業したプライベートジェット仲介会社グローバル・チャーターは急成長している。トランプ米政権の大型減税・歳出法により、事業主はプライベートジェットの購入費用を、購入年に全額損金算入できるようになったためだ。
グローバル・チャーターがまとめたデータによると、ジェット機の販売台数は業界全体で前年比11%増、一昨年比で3%増と勢いづいている。米国の買い手が12月末までの契約を急いでおり、ハーレー氏のチームは書き入れ時に向けて準備中だ。
トランプ大統領が署名した大型減税・歳出法では、ボーナス減価償却と呼ばれる特典を恒久的に100%に拡大する。つまり納税者は対象資産の価値全額を損金算入できる。企業が設備や車両、機械など、経年劣化するものの費用を、数年ではなく一度に全額控除できるようにすることで、投資を刺激する狙いがある。
だが税務専門家の手にかかれば、この特典は超富裕層の顧客が政府に支払うべき税金を削減する手段にもなる。その結果、プライベートジェットや洗車場、ガソリンスタンドに至るまで、対象となる品目に対する需要が熱狂的に高まっている。

フロリダ州の税務コンサルティング会社エンジニアード・タックス・サービスでは、顧客の税負担軽減策を模索している。同社のヘイディ・ヘンダーソン最高マーケティング責任者によると、審査中の不動産プロジェクトは前年比145%増加している。減税法の効果は、7月の成立後「ほぼ即座に現れた」という。
ヘンダーソン氏は「大幅な増加が見られる。『何を買い、どうすれば最大のメリットを得られるか』という問い合わせが殺到している」と語った。
第1次トランプ政権下にあった2017年、税制改革でボーナス特別償却は拡大され、対象資産の100%即時償却が一時的に認められた。この優遇措置は2022年以降、毎年20%ずつ縮小されることになっていた。
30年前に家業を引き継いだ起業家のマーク・ジョンソン氏は、2017年の税制改正後、この優遇措置を利用した。同氏は当時、家族が代々所有・経営してきた会社を売却する準備を整え、数百万ドルに上る納税義務を回避する方法を模索していた。
会計士の助言に従い、ジョンソン氏はコロラド州とアラバマ州で数軒の洗車場を購入した。同氏は現在、再び拡大されたこの制度を活用するため、さらなる洗車場の購入を検討している。生涯にわたり米内国歳入庁(IRS)に一切税金を納めずに済むよう、会計士とともに新たな節税手段を組み合わせているという。
ジョンソン氏は「これは大きなゲームだ。私が生きている間はこの仕組みが機能するし、死後に相続財産に課税はされるが、相続人はかなりの資産を手にできる」と語った。同氏はIRSから目を付けられないよう、会社名は明かさないよう求めた。

米議会の合同税制委員会は税制改正により、今後10年間でIRSの税収が約3630億ドル(約55兆5000億円)減少すると試算している。税制経済政策研究所の連邦税政策ディレクター、スティーブ・ワムホフ氏は「税制優遇だけを目的に特定資産への投資を促す非効率な政策だ。結果として、住宅のような本当に必要なものを建てるより、洗車場を建設する人の方が多くなる」と批判した。
商業不動産データ企業コスター・グループのデータによると、2017年の減価償却ボーナス拡大後、ガソリンスタンドと洗車場の売上高が大幅に増加した。
商業用不動産会社サーマウントのグレン・クノフスキー最高経営責任者(CEO)は、こうした物件はボーナス減価償却の適用を目的とした購入希望者向けに建設されていると明かす。同社は全米で販売される洗車場の大部分を仲介しており、建設・開発部門も有する。クノフスキー氏の推計によると、17年の法成立以来、同社が販売した洗車場は合計50億-60億ドルに上る。
クノフスキー氏は最新の法成立以来、洗車場やレストラン、新しい工場など「多くの新しいプロジェクトが動き始めている」と述べた。同氏によるとサーマウントの顧客は、多くがプライベート・エクイティ会社だが、富裕層家族も増えている。
デンバーに本社を置く不動産仲介会社RECの幹部、アレクサンダー・ベッカー氏も同じ傾向を実感しているという。顧客の多くは節税目標に合わせた明確な価格帯を設定し、特に洗車場やガソリンスタンドが狙われており、「これらの物件を買う側は、かなり競争が激しい状況だ」と明かした。
原題:Private Jet Tax Perk Sets Off Frenzied Demand From the Ultrarich(抜粋)
--取材協力:Ben Steverman.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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