消費税減税は掲げず
今後、高市政権ができた際に、具体的にどんな経済政策を打ち出していくのかは、連立や協力のパートナーがどうなるかによっても、随分変わってくると思いますが、高市氏の総裁選挙での公約を見る限り、他の候補者と、それほど大きな違いがあるわけではありません。
かつて高市氏は、食料品への消費税減税を主張していましたが、「これまで自らの主張が党内で多数の支持を得られなかった」として、事実上、これを取り下げました。当選後も、前向きな発言はしていません。
ガソリン税の暫定税率廃止や、いわゆる年収の壁の引き上げは、去年暮れに、自民、公明、国民民主の3党が最終目標として幹事長レベルで合意していたこともあり、総裁選の他の候補者も言及していたことです。その意味では、高市政権で驚くような経済政策が出てくるとみる向きは、今のところありません。
強いて言えば、ガソリン税暫定税率に関し、高市氏は、軽油(ディーゼル燃料)についても廃止を主張しており、2つあわせると必要な財源が年1兆5千億円に拡大するほか、軽油については地方税であることから、その手当の議論が複雑になるという点が挙げられるでしょう。
アベノミクスと全く違う環境
信条的には「アベノミクス信奉」でも、驚くような政策が予感されないのは、2012年のアベノミクス開始時と、2025年の今の経済状況が、違い過ぎるからです。2012年12月は、消費者物価はマイナス0.1%で、1ドル86円台、長期金利は0.8%、日経平均株価は1万円ちょっとでした。デフレで円高の時代ですから、為替を円安に導いてインフレを誘発することが適していましたし、金融緩和の手段として、日銀が国債を買い入れる余地が、まだありました。
2025年の今、物価は3%前後のインフレで、為替は1ドル150円台という円安水準で、長期金利は1.7%前後です。同じことをやったら、大変なことになってしまうでしょう。
最優先課題は物価高対策
当選後に高市氏は、最優先課題は物価高対策だと明言しました。食料品やエネルギーを中心とする今の物価高の、最大の要因は円安です。これ以上の円安の進行が、物価高対策を最優先に掲げる高市政権にとって好ましくないことは明らかです。逆に言えば、円安を止めることこそ、最も効果的な物価高対策と言えるでしょう。
仮に、一段の円安を受けて、日銀が利上げに踏み切る局面が来た際に、それを無理やり止めて、さらに円安に向かわせるほど、高市氏は「アホやない」と、私は思います。
実は、高市氏のロジックと日銀のロジックは、奇妙なほど同じです。高市氏は「物価は表面上2%を超えているが、需要が引っ張るような2%の物価上昇には至っていない」と述べました。これは植田総裁が繰り返し述べている、「基調的な物価上昇はまだ2%に至っていない」という認識と同じです。その意味では、緩和的金融環境を維持しながら、政策を微調整していくという文脈で、一定の落としどころは、見いだせるのではないでしょうか。