(ブルームバーグ):日本の電力取引市場の活況を背景に、気象データを活用した情報サービスがじわり存在感を高めている。世界の気象や環境情報を提供するウェザーニューズも流れに乗る一社だ。電力市場に参加する企業や電力トレーダーたちが新たな顧客層として加わっている。
エネルギー・流通気象事業担当の武田恭明執行役員は、ここ2-3年で日本の電力市場にすでに参入しているか関心を持つ海外の顧客との付き合いが始まったと話す。取引や接点があるトレーディング関連企業は数十社あるが、「3割ぐらいは海外系」で「欧州系が多い」という。トレーダーのみが対象ではないが、英語での情報発信も進めている。
千葉市に本社を置く同社は約40年前に設立された。同社ウェブサイトによると、創業者である石橋博良氏(故人)が、爆弾低気圧に伴う貨物船の沈没事故を受けて、「船乗りの命を守りたい」という思いで会社を立ち上げたという。
同社の特徴は、気象庁のデータと独自の観測ネットワークを組み合わせている点だ。観測網は気象庁の約10倍にあたる地域をカバーしているという。業績も好調だ。前期(2025年5月期)の営業利益は38%増の45億円で、今期も増益を見込む。

電力取引では、わずかな気温や雲の量の変化が価格を動かす可能性がある。取引業者が求めるデータを提供できる企業には商機がある。岩井コスモ証券の川崎朝映シニアアナリストは、今後の見通しについて「電力需要に影響を与える気象データのニーズは拡大し続けるだろう」と話す。
「日本の電力取引を始めるなら、詳細な気象情報は不可欠だ」。こう話すのは、シドニー在住のトレーダー、アントニー・ステイス氏だ。天候と電力市場は密接に関係しており、わずかな気象条件の変化が卸売価格に影響を与える。信頼性の高い情報を得られるかどうかは、電力トレーダーの死活問題になる。
ステイス氏は「例えば、明日の東京で午後3時から5時までの日射量がわかれば、トレードに大きな違いが生まれる」と説明する。
黎明期の日本
日本では16年に電力の小売りが全面自由化され、20年には欧州エネルギー取引所(EEX)が日本向けの電力先物取引を始めた。欧米に比べて発展途上とされるが、異常気象の頻発や原発再稼働の不透明さといった要因が、むしろ市場の成長を後押しする。
さらに、再生可能エネルギーの活用が徐々に広まる中、太陽光や風力などの電源が天候の影響を受けやすいことも、電力先物市場への参入を増やしている。EEXによると、日本の電力先物取引の参加者が5月に100社を突破した。

フィンランドの気象データ企業ヴァイサラでウェザーデスク事業部ゼネラルマネジャーを務めるトラヴィス・ハートマン氏は、日本市場の拡大によって、気象データや関連製品の販売先が広がる」と手ごたえを語る。
参入続々
矢野経済研究所によると、日本の気象データサービス市場は24年度までの4年間で約3割成長し、約518億円(見込みベース)に成長した。天候と電力の関係は、今後さらに強まると予測されており、海外の気象データベンダーも日本市場の成長力に注目する。
米ニューハンプシャーに本社を置くアトモスフェリックG2は最近、日本で初めてフルタイムの社員を採用し、電力トレーダー向けのサービスを拡充した。最高経営責任者のトッド・ナバラ氏はデータ提供する都市をほぼ2倍に増やした。
ニュージーランドの国立気象機関メットサービスも、日本市場への関与を強めている。24年4月には、日本電力トレーダー向けに英語による天気予報の日報サービスを開始。追加料金を支払えば、気象コンサルタントとの電話相談も可能だ。同社でエネルギーアカウントマネジャーを務めるエマ・ブレイズ氏は、潜在顧客は多いと話す。
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