(ブルームバーグ):4日の自民党総裁選で高市早苗前経済安全保障担当相が勝利したことを受け、市場関係者の間では金融・財政面に緩和的な高市氏の政策が日本銀行の金融政策に与える影響について見方が分かれている。
【市場関係者の見方】
野村証券の岩下真理エグゼクティブ金利ストラテジスト
- 市場参加者の多くが小泉進次郎氏の勝利を前提にしていたので、高市早苗氏の勝利はサプライズであり、円安、株高、金利スティープ化の高市トレードが復活するだろう
- 日銀の金融政策については、元々10月利上げはないとみていたが、国の方向性が明確になっていない中で、日銀が先行して動くとは考えにくい
- 高市トレードにより10月利上げ織り込みは低下するだろうし、織り込みが低下する中で日銀があえて利上げに踏み切ることはないだろう
三井住友銀行の鈴木浩史チーフ・為替ストラテジスト
- 高市氏は選挙期間中、積極財政を志向しつつも、より現実的な政策を提唱しているため、極端な円安が進むとも見ていない
- 日銀短観の結果も良好で、日銀は10月に利上げがあると予想しているが、高市氏が利上げに否定的な姿勢を示せば利上げ織り込みは低下し、円安圧力が加わる可能性がある
- あくまでリスクシナリオだが、市場参加者はその可能性を意識せざるを得ない
- より中期的に見ても政治の不安定性は残るため、円安圧力が残りやすい。日銀の利上げ路線がどこまで継続するかによるが、ドルの上値は155円くらいだろう
ゴールドマン・サックス証券の田中百合子エコノミスト
- 今回の自民党総裁選の結果は、日銀の当面の金融政策に大きな影響をもたらさないと考えられる。データ面でも関税引き上げの影響がみられ始めており、日銀は当面金利据え置きを維持するだろう
- 高市氏は今回の総裁選で金融政策の手段は日銀が決めるべきだとの考えを示しており、金融政策に関する具体的なコメントは述べていない
- 日銀が利上げを決定しても、緩和的な金融環境は維持されるなどで日本経済の長期的な成長につながるとし、広い意味で政府の経済政策との整合性が問題になる可能性は大きくない
シティグループ証券の阪上亮太チーフ株式ストラテジストら
- 高市氏が予想外の勝利を収めた。アベノミクス推進派である同氏の勝利を受け、市場の初動としては円安・債券安、株高の反応が見込まれる
- TOPIXは短期的に3200ポイント、日経平均株価は4万7000円までの上昇が視野に入る。新政権の経済政策の恩恵を受けるのは消費や防衛関連、為替感応度の高い銘柄とみられる。一方、金融や不動産セクターには逆風となる可能性が高い
英ポーラー・キャピタルのポートフォリオマネジャー、クリス・スミス氏
- 海外投資家にとって、高市氏の勝利は日本株の投資魅力度を高める要因となるだろう。アベノミクスの精神を継承しつつ、成長志向の改革姿勢を示していることは継続性と新たな推進力の両方を市場に伝えるシグナルになる
- 日本初の女性首相誕生の可能性は象徴的かつ国際的に注目度の高いテーマで、経済的な成長機会だけでなく、政治的進展を示すストーリーとしても海外投資家に訴求力がある
大和証券の木野内栄治チーフテクニカルアナリスト兼テーマリサーチ担当
- 国内総生産(GDP)の需給ギャップがルーズでデマンドプル型に向け財政支出が有効な場面であり、需給ギャップ上昇を促すなら株高になり得る。米国で駆け込み消費が減退するまでアベノミクス2.0の可能性が高い
- その後も政策物色テーマが多く注目だ。高市総裁関連は防衛(IHI、川崎重工業、三菱重工業)、量子コンピューター(NEC、富士通、フィックスターズ)、核融合(東洋炭素、浜松ホトニクス、助川電気工業)など
- 高市氏に日銀は協力的だろう。植田総裁は岸田首相(当時)に呼び出された後に管轄が異なる為替も見ることになるなど、首相に従順だ
富国生命保険の佐藤篤有価証券部長
- 日本株は小泉氏勝利を事前に織り込みつつあったところが巻き戻り、上昇の勢いが増している。期待先行なので、企業の中間決算が出てくるまでは政策関連のニュースフローに相場が左右される展開になろう
- 高市氏の関連銘柄が買われる「高市トレード」はきょうである程度落ち着くのではないか。防衛関連などは既にバリュエーションがかなり高い
- 為替の円安で中間決算への期待は高まりやすくなる。9月の配当落ちで需給が緩むと思っていたが、これだけ株が上がると資産効果を見込んで個人の資金がさらに流入する展開も想定できる
- 財政懸念で長期金利が急上昇しないかどうかを注視する。株式にもリスクになり得る
岡三証券の内山大輔シニアストラテジストら
- 高市氏の勝利を受け、投資テーマとしての「キャッシュリッチ」が再び注目される可能性がある。該当企業にはアクティビストファンドによる改革圧力が増すだろう
- 高市氏は2021年の著書で「現預金課税」というアイデアを示したほか、昨年の総裁選期間中にコーポレート・ガバナンス・コード(CG)の改訂で内部留保の使途を明示させるべきだと主張しており、企業の現預金に対する問題意識は一貫して強い印象
- 金融庁が2025事務年度のCGコード改定で示す現預金に関する説明責任強化の方針と一致している

(市場関係者の見解を追記)
--取材協力:日高正裕、アリス・フレンチ、ジョン・チェン、田村康剛、上野英治郎.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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