(ブルームバーグ):イーロン・マスク氏が率いる脳インプラント会社ニューラリンクは、被験者から得たデータをまとめた学術論文を専門誌に投稿した。掲載が認められれば、同社にとって初の被験者データを用いた査読済み論文となる。
米バロー神経学研究所のマイケル・ロートン所長兼最高経営責任者(CEO)によると、この論文は米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに送付されたもので、脳にニューラリンクの装置を埋め込んだ最初の被験者3人の安全性データなどが含まれているという。同研究所はニューラリンクの臨床試験実施拠点の一つ。
脳と電子機器をつなぐ「ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)」の開発を手がけるニューラリンクはこれまでに10億ドル(約1500億円)余りを調達し、直近の資金ラウンドでは評価額が90億ドルに達した。査読済み論文が掲載されれば、外部の科学者がニューラリンク装置の性能を独自に検証できるようになる。
著名人のマスク氏がニューラリンクを創業したことで、この分野への関心と投資熱は高まり、他の企業や学術機関の研究開発が加速した。ニューラリンク以外の企業や研究者もすでに広く成果を公表している。
ロートン氏は、ニューヨークで開かれたマウントサイナイ・ヘルスシステム主催の脳インプラント関連会議に合わせて、論文について発言した。内容の詳細への言及は控えた。ニューラリンクにコメントを求めたが、返答はなかった。同社はこれまで12人に装置を埋め込む施術を行ったと先に明らかにした。
ニューラリンクの社長DJ・セオ氏は9月、2030年までに健康な人への装置埋め込みを目指すと語った。現時点では、重度の疾患や障害を抱える患者を対象とする実験的な施術に限られている。
ロートン氏は同会議でブルームバーグ・ニュースが進行役となったパネル討論に参加し、ニューラリンクは「これまで障害を抱える患者に焦点を絞り、極めて慎重に取り組んできた」としながらも、同社が「この装置を必要とする可能性のあるほぼ全ての人に装着するというビジョンを持っている」と述べた。ただ健康な人への装着までの「道のりはまだ長い」との認識を示した。
ニューラリンクは31年までに年間2万人への装置埋め込みと、10億ドル以上の年間売上高を目指している。コンピューター操作を支援する装置に加え、視覚の回復や脳の言語活動の直接読み取り、パーキンソン病治療を目的とするチップの開発も進めている。
原題:Musk’s Neuralink Submits Brain Implant Patient Data to Journal(抜粋)
--取材協力:Jessica Nix.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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