はじめに
社会保障審議会障害者部会では、現在、グループホームに総量規制をかけるべきかどうかが議論されている。
昨年11月財務省は、財政制度等審議会の財政制度分科会において「グループホームにおける総量規制の導入等といった改革を進めるべき」と説明した。
財務省は、障害福祉サービスは、介護などと比べても利用者負担割合が低く、需要サイドからのけん制が働きにくく、供給が増加すれば費用が増加しやすい構造になっている、と指摘する。
障害者福祉において、障害者グループホームは「施設入所から地域生活へ」という流れの中で施設入所者の地域での受け皿として期待され、その数も増加してきた。
「重度の障害者向けのグループホームの数はまだまだ足りない」という声も多く聞かれる中で、どうして総量規制が必要なのか。
障害者グループホームをめぐって何が起こっているのか見ていきたい。
民間事業者の参入増加と「恵」事件
検索エンジンで「グループホーム投資」と入力すると、「年利12%の社会貢献型投資」「障害者グループホームの運営は安定した収益性で福祉事業の中でも注目されています」などの言葉が次々と目に飛び込んでくる。
「障害者グループホーム運営」はもうかる社会福祉事業として認知されているようだ。その結果、近年は営利目的の民間事業者の参入が増加し、提供されるサービスの質の低下を招いていると自治体は感じている。
2023年から2024年にかけて障害者向けグループホーム運営会社「恵」による食材費過大徴収という不正事件が起きた。「恵」では徴収した食費の4割程度しか食材費にあてておらず、残りを流用していた。
「恵」は全国で約100のグループホームを運営しており、事業者指定の取り消しと連座制の適用により、多くの入居障害者が影響を受けることとなった。
「恵」のような不正は特殊な例であったとしても、十分な知識や運営体制がない事業者が質の低いサービスしか提供しないケースは増加している。
重度の知的障害者は、劣悪な状況を自分たちの言葉で外部の第三者に伝えることもできない。実態が表面化しない状況が継続することとなる。
総量規制とは何か
では総量規制とは何か。グループホームの量を規制するのか。
自治体は、総量規制の対象になっていないと「事業者の運営体制や制度理解が十分でないと感じている場合でも、指定基準をクリアした申請書類が揃っていれば事業者の指定をせざるを得ず」と言う。
厚生労働省の資料によると総量規制とは、「都道府県等は、指定権限を有する一部の障害福祉サービス等について、都道府県等の障害福祉計画・障害児福祉計画の達成に支障が生ずるおそれがあると認めるとき(計画に定めるサービスの必要な量に達している場合等)には、事業所等の指定をしないことができる(いわゆる総量規制)」ということだ。
「十分でない」と感じれば指定しなければ良い、と私などは考えるのだが、行政はその「指定をしない」という権限を総量規制により手にして、適切な指定を実施していきたいと言う。
しかし、障害者部会では多くの委員からも「総量規制を導入すればサービスの質が担保できるのか」という素朴な疑問が示されており、総量規制の必要性が十分には理解されていない様子も見て取れる。
まとめ
「障害者グループホームはもうかる」ということで、民間事業者の安易な参入が増加し、提供されるサービスの質の低下が起きている。
その質の低下を事業者の指定という入り口で防ぐ手立てが総量規制ということのようだ。
障害者部会では、総量規制だけではなく、
・グループホームにおける支援に関するガイドラインを作成し、それを活用した研修も行っていくこと
・地域のニーズを把握している市町村が、都道府県の行う事業者指定について意見具申できる制度の活用を推進すること
等により、グループホームにおけるサービスの質の低下を防いでいくとしている。
障害者福祉サービスが全く足りない状況では、必要な量の提供を確保するために参入のハードルを低くすることも必要だったのだろう。
その中から優良な事業者が育っていく仕組みが求められる。今後の議論と実施される方策に期待したい。
※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 経済研究部 部長 宮垣 淳一
※なお、記事内の「注釈」に関わる文面は、掲載の都合上あらかじめ削除させていただいております。ご了承ください。