超富裕層向けのファミリーオフィスが増加し、組織の専門化が進む中、米国では、運用責任者の報酬が世界最高レベルに跳ね上がっている。

会計事務所KPMGと人材紹介のアグレウス・グループが30日に発表したリポートによると、米国のファミリーオフィスに所属する最高投資責任者(CIO)のほぼ5人に1人が、年間100万ドル(約1億4800万円)以上の報酬を得ている。この割合は、世界で最も高いという。

報酬が同水準のCIOは、ユーロ圏では約9%、メキシコやカナダを含む米州全体では16%だった。リポートによると、英国やアジアではこの水準に達したCIOはおらず、最高経営責任者(CEO)の方が投資責任者より高収入のケースが一般的だった。調査は、世界のファミリーオフィス関係者585人を対象に実施された。

アグレウスの共同創業者ポール・ウェスタル氏は「米国は報酬水準が高い。市場がより成熟しているからだ」と語る。米国のファミリーオフィスは運用資産規模が大きいことが多く、それが高い給与につながっていると説明した。

ブルームバーグ・ビリオネア指数によると、世界の富豪上位500人のうち、少なくとも5分の1は、総額4兆ドル超に上る資産を守るため、ファミリーオフィスを利用している。米国で資産を管理しているのは、ジョージ・ソロス氏、シャネルを率いるベルテメール一族、ハリウッドの映画スタジオ経営者ボブ・シェイ氏らで、過去10年に経験豊富な機関投資家のマネジャーらをCIOとして採用してきた。

米国には世界で最も多くの億万長者がおり、従来からファミリーオフィスの中心地とされてきた。ただ、近年では香港、アラブ首長国連邦(UAE)、シンガポールなど他の富裕層拠点も、ファミリーオフィスを誘致する取り組みを強めている。実際、ヘッジファンド会社ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者レイ・ダリオ氏や、プライベートエクイティー(PE、未公開株)投資会社大手アポロ・グローバル・マネジメントの共同創業者レオン・ブラック氏ら、米国の一部の億万長者が、アブダビに海外支部を設立している。

アグレウスのもう一人の共同創業者で、中東市場責任者のタイヤブ・モハメド氏は「多くのファミリーオフィスがこの地域、特にUAEに移転し拠点を築いている」と指摘する。

リポートによると、米国のファミリーオフィスは一般的にはニューヨーク拠点だが、テキサス、カリフォルニア、フロリダも人気の立地だ。調査対象となったファミリーオフィス関係者の6割以上が、昨年初め以降に昇給を得たと回答し、ほぼ同じ割合が裁量ボーナスを受け取ったと答えた。昇給の理由として最も多かったのはインフレで、次いで個人の業績だった。

給与は、ファミリーオフィスにおける経費増加の大きな要因となっている。運営コストは運用資産の0.6-1%程度となるのが最も一般的で、この割合は2023年から36%増加した。報告書によると、こうしたコスト圧力を背景に、ファミリーオフィスは採用やコスト管理、報酬についてより慎重になりつつある。

調査対象となったファミリーオフィスの大半は、チーム体制を変えていないと答えた。リポートの著者らは、これは採用の抑制となって表れているとの見方を示し、「不透明な市場」を前に、拡大をためらっている実態を反映した動きだと述べた。

モハメド氏は採用活動について「ファミリーオフィスは2025年を非常に慎重に乗り切ってきた」と指摘。「ただ、情勢は落ち着きつつあり、変化が訪れるとみている」と述べた。

原題:US Family Offices Dominate Pay Race With $1 Million CIO Salaries(抜粋)

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