(ブルームバーグ):カナダでは、米ニューヨーク州からケベック州の国境検問所を通じて入国する亡命希望者が急増している。トランプ米大統領の政策により、移民に加え一部の市民も米国を離れていることが背景にある。
ケベック州のサンベルナールドゥラコルの国境検問所では、7月以降の難民申請が5500件を超えた。カナダ国境サービス庁(CBSA)のデータによると、これは前年同期比で263%の増加となる。
夏季にかけての急増は、トランプ大統領の強硬な移民政策が国境を越えて米国外にも波及していることを浮き彫りにしている。米政権は一時的な滞在資格を持っていた数十万人の保護を撤回し、犯罪歴のない人々も対象とする一斉摘発を拡大してきた。トランプ大統領は今週、メンフィスへの州兵派遣を承認。ロサンゼルスやワシントンでの派遣に続く措置で、シカゴなど他都市への派遣も示唆している。ホワイトハウスは関係機関に対し、強制送還目標の達成を強く求めている。
カナダ全体では、今年前半に陸路国境での亡命申請件数が30%増えた。一方で、空港での入国要件が厳格化されたため、全体の申請数は減少した。専門家によれば、申請者で最大のグループはハイチ出身者で、その後に続くのが米国市民とベネズエラ人だ。米国市民には、不法移民の親を持つ米国生まれの子どもが多いとされる。
仏語圏のケベック州はカナダ最大のハイチ系コミュニティーがあり、長年にわたり新たな移住者を引きつけてきた。
カナダ難民弁護士協会のアシュリン・ボンディ会長は、米移民・税関捜査局(ICE)による一斉摘発が、不法滞在のまま「米国で10年、20年と身を潜めて暮らしてきた人々」に米国にとどまることのリスクを再考を促しており、カナダへ向かわせている可能性があると指摘した。
ただ、カナダ国内の親族との密接なつながりを証明できなければ、到着しても入国を拒否される可能性が高い。カナダ国境サービス庁のデータによると、9月中旬時点で、今年カナダで難民認定を申請したものの「安全な第三国協定」に基づき資格なしと判断され、米国へ送還された事例は2272件に上る。
同協定は両国間の条約で、外国人が難民保護を申請する場合、最初に到着した国(米国またはカナダ)で申請しなければならないと定めている。
米国市民はこの協定の対象外だ。カナダに亡命を求める米国市民の多くは、不法滞在の親を持つ米国生まれの子どもたちとみられるとボンディ氏は語った。米国では親の滞在資格にかかわらず、米国で生まれれば自動的に米国の市民権を得る。だが、トランプ大統領はこの規定を変更しようとしている。
また7-8月には、正規の入国地点を経ずに米国からカナダへ不法越境し、難民申請を行おうとする外国人も増加した。年初からこれまでに計1125人が摘発され、米国へ送還されている。米税関・国境警備局(CBP)の当局者はコメント要請に応じなかった。


原題:Migrants Flee US for Canada After ICE Agents Intensify Raids(抜粋)
--取材協力:Randy Thanthong-Knight.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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