アラスカLNGが本命か
こうした中、東京電力と中部電力が設立した火力発電の会社・JERAは、11日、トランプ大統領がこだわるアラスカ州の液化天然ガス(LNG)事業からの、調達の検討を始めると発表しました。開発を進めるグレンファーム社との間で「関心表明」の意向書を締結しました。「関心表明」には、法的拘束力はないとのことですが、これまで日本側は、1300キロにも及ぶ長いパイプライン建設が必要なこのプロジェクトには、コスト面からも、慎重な姿勢を示してきており、はっきり「関心」、つまり前向きな姿勢を示したことは、大きな転換です。その背景に、今回の合意にある「公的な支援」の存在があることは明らかです。
時を同じくして、ラトニック商務長官は、11日、CNBCのインタビューにアラスカLNG開発プロジェクトが、日米合意の投資対象になるとの見方を示した上で、「1000億ドル(約15兆円)のプロジェクトだ」と述べました。日本は、外堀を埋められるように、いわば「拒否権なし」の形で、このプロジェクトに参画することになるのでしょうか。
自動車最優先でまとめられた合意
今回の対米投資合意は、高率の輸入関税、とりわけ基幹産業である自動車の関税を少しでも下げるために、赤沢大臣を筆頭に急いでまとめたという経緯があります。もちろん、急がなければならない理由があったわけですが、一方で、合意直後には、合意内容を確認する文書すら作っていないという杜撰な面もありました。
この間、関税15%への引き下げのメリットと、対米投資80兆円のリスクがきちんと国民の前に示され、そのバランスが吟味されることもありませんでした。「関税より投資」などという石破総理の、曖昧な言葉だけが先行し、「投資」の中身は、未だに藪の中です。
退陣を表明した石破政権、「日米関税合意」を成果と胸を張りますが、そのツケの大きさは、まだ見えていません。ツケの存在が国民に示されていないことが、何より問題なのです。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)