“絶体絶命の危機”がEV参入を後押し

エコシステムの完成という内的要因に加え、シャオミがEVという巨大な賭けに出たのには、もう一つ、より切実な理由がありました。

2021年、同社の成長に急ブレーキがかかります。きっかけはアメリカ政府による制裁です。

当時、収益の大部分をスマホ事業に依存していたシャオミの経営陣は、まさにパニックに陥りました。

取締役会から「スマホが売れなくなったらどうするのか」と突きつけられたCEOの雷軍氏は、当初、EV事業への参入に深く苦悩したといいます。

EVはしばしば「タイヤの付いたスマホ」と表現されますが、その実態は比較にならないほど複雑です。

スマートフォンを構成する部品が1000〜2000個程度であるのに対し、自動車の場合は、数万点に跳ね上がります。サプライチェーンの規模も、比較になりません。

EVに関する知識が自分に足りないことを痛感していた雷軍氏が取った策は、外部から最高の才能を集めることでした。

CEOの雷軍氏は、中国のEV業界全体に網をかけ、トップクラスの人材を口説き始めます。

シャオミのヘッドハンターは、候補者たちに「断れないほどの好条件」を提示し、中国の大手自動車メーカー・ジーリーやBMWなどから次々と人材の引き抜きを成功させていきました。

人材を確保したシャオミは、EVサプライチェーンのあらゆる分野にわたる100社以上の企業に16億ドル以上を投資し、最終的には北京に最新鋭の自社工場まで建設しました。

これほど短期間に、垂直統合に近い形でサプライチェーンを構築した例は、中国市場でも前例がありません。

そして2024年、その集大成として初のEV「SU7」がベールを脱いだのです。