レストランの従業員は客を嫌っているのか。ブルームバーグ・パースーツのフード担当編集者である筆者に1年半前、読者からそんな質問が寄せられた。

その答えを探すために頼ったのが、ブルームバーグ・パースーツに寄稿している作家アダム・ライナー氏だ。

「米料理界のアカデミー賞」と言われるジェームズ・ビアード賞を受賞している同氏はニューヨーク市で20年以上にわたり、タイムズスクエアのテーマレストランや「カーボーン」、「ザ・グリル」、「バッボ」など多くの店で給仕を務めてきた。

ライナー氏は今月、「外食の新ルール:レストランを楽しむためのインサイダーガイド」と題した初の著書を米国で出版する。

これはレストランでの体験をより良いものにしたい人全てに向けた実用的なハンドブックで、特別扱いを求める人にとっても必携の指南書だ。

同氏は著書の中で「過剰にお金を使うことだけが常連になるための確実な方法ではない。レストランの従業員は『仕える』という役割に慣れているため、客が本気で彼らと知り合おうとすれば、双方にとって有益な関係を築く大きな助けになる」と書いている。

ニューヨークなどでは人気店のプライムタイムに予約を取ることが、力を競い合う究極のゲームとなっている。そのため、こうしたスキルを身に付ける価値が高まっている。

さらにライナー氏は最近のインタビューで、より良いダイニング体験は脆弱(ぜいじゃく)さをはらむレストラン業界全体の改善にもつながり得ると主張する。

「客が感じることは全て、レストランも感じている」と言う同氏は、高騰する食材費やチップ制度への不満をその例として挙げる。「客が『どうすればもっと良いゲストになれるか』と考えることは、全員の体験を良くする助けになる。たとえそれが、望んでいるより少し早く席を立つことを意味するとしても」と述べる。

では、実際にウエーターは客を嫌っているのだろうか。ライナー氏は「一般的に言えば、ほとんどのウエーターは客を『嫌っている』わけではないと思う」と話す。ただし「どのレストランにも、スタッフの大半が我慢ならないと感じている常連客が数人はいる」とも指摘。

「そういう客がドアを開けて入ってきた瞬間に、スタッフ全員がうんざりした声を上げることもある」という。そんな客にならないために、レストランでVIPのように扱われるためのルールを6つ紹介する。

1)スマホばかり見ない

スマートフォンをロッカーにしまえと言っているわけではない、とライナー氏は話す(実際にそう求める店もある)。

「常にメッセージを確認していると、つながるチャンスを逃すことになる」。もちろん写真を撮るのは構わない。大半の客がSNSにアップしたいと思っており、店側もそれを歓迎することが多い。

ただし、高級レストランでの一夜をTikTok動画に捧げるようでは、ウエーターとの関わりは生まれない。さらに同氏は著書で「ウエーターは自分に関心を払わないと感じる気が散った客よりも、注意を向けてくれる客をはるかに重視する」と書いている。

2)漠然とお薦めを聞かない

ウエーターにお薦めを尋ねるなら、自分の好みや食べられないものを具体的に伝えるべきだ。よほどウエーターの好物を知りたいのでない限り、自分の嗜好(しこう)を基準に質問を組み立てる必要がある。

ライナー氏は著書で「例えば『軽いものが食べたい、バターが多過ぎる料理は好きじゃない。スズキとオヒョウならどちらを薦めますか』と聞くのがいい」と促している。

炭水化物を控えているのに「アンチョビ入りスパゲティ」をウエーターから薦められても、ほとんどの場合、時間の無駄に終わる。

3)テーブルを占領しない

VIPであれば急かされずに食事を楽しめるのも利点の1つだが、レストラン経営は日々厳しさを増している。気に入ろうが気に入るまいが、店を所有していない限り、テーブルは数時間借りているに過ぎない。

「気配りのできる客は、常に妥当な時間でテーブルを空けようとする」とライナー氏は記している。もし席を立ちたくないなら、バーで食後酒を楽しめるかどうかスタッフに聞けばいい。そのように協力的であれば、次回から長居を許してもらえる可能性が高まるという。

4)パッサー(Passer)を忘れるな

「チップ制度は最悪だという点では全員が同意できると思う」とライナー氏は書いている。「だが、この仕組みはすぐにはなくならないのだから、有効に活用した方がいい」との考えだ。

レストランではバッサー(テーブルの片付けや水の補充を担うスタッフ)がウエーターより長く客を見ているが、客から直接チップを受け取ることはない。「彼らに20ドル札を渡せば、水は切れることなく、パン籠は補充され、テーブルもすぐに片付けられるようになる」とライナー氏は説明する。

5)食事を事前に決めない

前もって食事を決めてしまうと、特別な体験を逃す可能性がある。「人気メニューばかりにこだわると、レビューに載らない裏メニューや季節の料理を味わい損ねるリスクがある」とライナー氏は言う。

「メニューについてウエーターと会話する時間は、親密さを築く助けにもなる。あらかじめ注文を決めてしまうと、その大事な接点を失ってしまう」のだそうだ。

6)新しい店でVIP待遇を期待しない

新しくオープンした店に行くのは、数週間から数カ月待ってからの方がいい。「レストランは新生児のようなもの」で、「成長と成熟に時間が必要で、時には客に迷惑をかけることもある」とライナー氏は記している。

開店から一段落すれば予約は取りやすくなるし、その頃には総支配人らスタッフとの関係を築くチャンスも増える。彼らは今後の体験に大きな影響を及ぼす存在だ。

原題:How to Become a VIP Guest in Restaurants in Six Simple Steps(抜粋)

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