ヘッジファンド運営会社スカイブリッジ・キャピタルの創業者アンソニー・スカラムーチ氏は、トランプ大統領による大規模な税制優遇措置を利用した投資商品を富裕層を相手に売り込んだが、利益を上げるのに苦戦している。同氏にはそれでも、手数料が払い込まれ続けている。

第1次トランプ政権でわずか10日で広報部長を解任され、ウォール街では「ザ・ムーチ」と知られる同氏は2018年、トランプ大統領が推進した「オポチュニティーゾーン」を活用する不動産投資信託(REIT)を設定。倉庫や中所得者向け住宅、高級ホテルなどの開発が構想リストに並んだ。しかし実現したプロジェクトは1件のみだった。

このREITは30億ドル(約4400億円)の調達を目指していたが、実際に集めたのは5000万ドルに届かなかった。投資先はニューオーリンズの倉庫街地区にあるヴァージン・ホテルズの物件1件だけだ。

アンソニー・スカラムーチ氏

設定時にスカラムーチ氏が示唆していた年率8%〜10%の税引き前リターンを達成していないどころか、投資家への配当が支払われたことは一度もない。

にもかかわらずスカイブリッジ・キャピタルは、同ファンドの純資産価値に対し1.75%の手数料を受け取り続けている。2018年12月の初回募集から昨年末にかけて、同REITは1.4%の損失を出したと投資家は述べた。19年に参入した投資家は5.6%の損失だという。

スカイブリッジの幹部らはコメントを控えた。

トランプ大統領の肝いりで成立した大型減税・歳出法(ひとつの大きく美しい法)は、低所得コミュニティーの経済発展をうたうオポチュニティーゾーン制度を恒久化した。2027年1月からは新たな投資ファンドの波が押し寄せる可能性がある。スカイブリッジの経験は投資家への警鐘となるかもしれない。つまり税制優遇があっても、利益を上げないことには意味がないということだ。

オポチュニティーゾーンにおける1人当たり投資額

スカイブリッジのブレット・メッシング社長は2020年3月のヤフー・ファイナンスとのインタビューで、裁定10年間の保有義務と不動産業界の動向を指摘し「このプログラムは期待倒れだった」と語った。「そこそこうまくはいっているが、実行は想定していたより難しかった」と述べた。

袋小路

厳格なローン契約条項のため、ホテルの貸し手は収益の一部をエスクロー口座に差し押さえている。このため、REITの投資家は一切、現金分配を受け取っていない。

同REITは資金が底を付き始めた2025年7月、既存投資家に新たな投資口600万ドル相当を80%のディスカウントで販売。これによって投資家は手数料支払いを継続した。

顧客にとってはどちらに動いても勝ち目のない状況になったとの指摘がある。つまり新たな投資募集に参加しないなら、既存の持ち分は希薄化する。逆に参加すれば帳簿上では直ちにリターンが計上されるが、ファンドが投資対象のホテルを10年以上保持しない限り、投資家は利益に課税されるリスクを負う。

スカイブリッジはまた、年次総会の代理投票権および開催費用として年間15万ドルを投資家に請求する。

2024年の株主総会でメッシング社長はロサンゼルスの車内にいることを理由に、投資家からの質問に答えなかった。投資家の不満が相次いだために総会はその場で終了、紛糾はさらに悪化した。今年5月の総会では、投資家の音声がミュートにされた。

原題:Scaramucci’s ‘Opportunity Zone’ Bet Turns Into Bust for Clients(抜粋)

--取材協力:Patrick Clark.

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