(ブルームバーグ):ルカ・マルコビッチ氏は2018年に米ウィスコンシン州ミルウォーキーで賃貸用にメゾネット式住宅2戸をそれぞれ約10万ドル(約1480万円)で取得した。そうした投資が安定した収入を生み出し、同州で新たな物件6戸を買い入れることができた。
同氏は米国とセルビア、母国モンテネグロの間を行き来しながら、主にリモートで事業を営んでいる。
不動産の観点から見て、米国に勝る投資先はないと同氏は指摘。「投資に最適なタイミングはいつも5年前だ」としながらも、最良の投資先は「政権や大統領にかかわらず、常に米国だ」と話す。
現在30歳のマルコビッチ氏は、08年の住宅危機の際にはまだ住宅を所有していなかった。だが、多くの外国人が米住宅市場について同氏と同じような楽観的な見方を抱いている。
全米不動産業者協会(NAR)のリポートによれば、米国内で今年3月までの1年間に外国人の中古住宅購入額は計560億ドルと、前年から33%増加。購入件数は7万8000件超と、ピークだった17年の水準には遠く及ばないが、8年ぶりにプラスとなった。

第1次トランプ政権の最初の数年から新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)期にかけて、中古住宅販売は急減。ドル高に加え、世界の他地域の景気低迷で需要が抑制された。さらにここ数年は、住宅ローン金利と住宅価格の高止まりが多くの米国民を住宅市場から遠ざけてきた。
その結果、今春の米住宅市場はここ10年余りで最も低調な動きとなったものの、競争が減ったことが外国人に有利に働いている。外国人による購入が米中古住宅販売に占める割合はわずか2.5%に過ぎない。それでも手頃な価格の物件不足で多くの米国民が市場から締め出される中、外国人の需要が増えればそうした状況に拍車をかけることになりかねない。
NARの企業・消費者担当調査ディレクター、マット・クリストファーソン氏は「国内の買い手が足踏みを余儀なくされている一方で、外国人はそうした要因に縛られていない。特に投資のチャンスを狙って、参入することができる」と指摘した。
NARのリポートによれば、この1年間に米国で物件を取得した外国人の約44%が国外居住者だった。その多くは休暇用の別荘として、あるいは米国に留学する子どもなど家族のために購入していた。また、マルコビッチ氏のように、不動産投資を主な目的とする買い手もいる。

外国人向け米不動産融資プラットフォームを運営するワルツの創業者、ユバル・ゴラン最高経営責任者(CEO)によると、メキシコ、カナダ、イスラエルといった国々の買い手を中心に関心が高まっているという。
トランプ大統領がレトリックや通商政策を通じてもたらしてきたドル安や、米国内の需要減少で、外国人投資家にとって不動産からの利益が得やすくなったためだ。住宅価格高騰で賃貸市場に向かう米国人が増えたことで、供給が圧迫され、家主の利幅は拡大している。
オーストラリア人投資家スコッティ・モーティマー氏(44)にとっては魅力的な状況だ。18年間にわたって米国を訪れていないにもかかわらず、23年以降にイリノイ州とミズーリ州で計5戸の物件を購入した。イリノイ、インディアナ、オハイオといった中西部の州は「キャッシュフロー面で実に素晴らしい」と語る。
NARのリポートは第2次トランプ政権の最初の2カ月分しかカバーしていないが、外国人が米国への関心を完全に失ったわけではないことが示されている。トランプ政権による世界的な貿易戦争や移民規制強化を受け、海外投資家や観光客の間では米国離れが始まっている。
カナダのモントリオール郊外に住む不動産投資家バージニア・マルコリン氏(52)に関して言えば、トランプ氏の政策に水を差されたことは間違いない。4人の子どもを持つ同氏は昨年11月、米バーモント州キャッスルトンで6ベッドルームのメゾネットを購入。それを学生に賃貸して得た利益で、自分の子どもの学費を賄っている。
同氏は最近まで米国のバーモント州かニューヨーク州北部で2件目の購入を考えていた。ところが最初の物件購入後に米国とカナダの関係が悪化し、トランプ氏はカナダに対する「口撃」を強め、新たな関税の脅しをかけるようになった。
そこで現在は、カナダのニューブランズウィック州セントジョンにある物件の購入手続きを進めている。米国の不動産は一般的に投資利回りが高めだが、近い方が「政治的リスクが少ない」ことからカナダ国内にとどまる選択をしたという。
(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
原題:Foreigners Are Buying US Real Estate Again(抜粋)
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