米金融サービス会社キャンター・フィッツジェラルドは、トランプ関税に対する訴訟の結果に基づくトレードをヘッジファンド向けに仲介する案を社内で協議したことがあったが、実際に取引を行うことなくこの構想は廃案になった。事情を知る複数の関係者が明らかにした。

米民主党のエリザベス・ウォーレン、ロン・ワイデン両上院議員はこれより先、キャンターのブランドン・ラトニック会長宛てに書簡を送付したことを明らかにしている。同社がトランプ政権の関税に絡んだ金融商品を組成したとされる問題を取り上げ、利益相反やインサイダー取引の可能性を指摘した。

ブランドン・ラトニック氏

ブランドン・ラトニック氏は、トランプ政権の関税政策で重要な役割を担うラトニック商務長官の息子。書簡は13日付けで、両議員が14日朝に公開した。

ウォーレン、ワイデン両氏は米誌ワイアードによる7月下旬の報道を引用。ワイアードは、裁判所が関税を無効と判断することに賭けられる「訴訟金融」商品をキャンターが組成したと伝えた。

キャンターの広報担当エリカ・チェース氏はこの日、同報道に反論。「当社の事業について報じられている内容は全くの事実無根だ。キャンターは米関税の合法性に関する訴訟請求を巡って、リスクポジションを取ったり、見解を持ったり、ビジネスを仲介したりする事業は行っていない」とのコメントを発表した。

社内の話し合いであることを理由に匿名で話した関係者によれば、キャンターは顧客から、ウォール街の大手銀行が行っているようにそうした取引を仲介する可能性はないかと問い合わせを受けた。一部のスタッフが潜在的な顧客とその実現について話し合ったが、最終的に案は却下されたという。同社は仲介する取引について方向性のあるポジションは取らず、買い手と売り手をマッチさせた際にのみ手数料を受け取る。

キャンター広報担当のチェース氏はブルームバーグの電話取材に対し「その市場において当社はいかなるトレードの仲介も実行も行っていない」と述べた。

ラトニック商務長官はトランプ氏の政策や市場に影響を与え得る事案の形成に影響力を及ぼす人物であることから、キャンターの取引は利益相反を警戒する倫理監視団体の注目を集めてきた。ブランドン・ラトニック氏はかねて、キャンターを「暗号資産(仮想通貨)の中心に据えたい」と述べている。暗号資産産業はトランプ政権下で急成長している。

ウォーレン、ワイデン両議員は書簡で、訴訟請求に関連して行った取引や契約を2週間以内に開示するようキャンターに求めた。

「報道によれば、キャンターは企業に対し、関税が今後返金される場合にその返金を受け取る権利を、支払った関税額の20-30%と引き換えに取引できる機会を提供している」と書簡では指摘。「このシナリオでは、裁判所が関税を違法と判断すれば、企業は数億ドル規模の返金を受けられる可能性がある」としている。

ワイデン議員はブルームバーグへの電子メールで、ブランドン・ラトニック氏は「商務長官が直接指揮する政策を対象に巨額の賭けを仲介している」と非難した。

原題:Cantor Weighed Tariff Trades for Hedge Funds But Shut Them Down(抜粋)

(キャンターの事情を知る関係者の情報を加えます)

--取材協力:Todd Gillespie.

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