持続可能性への取り組みと未来への課題

こうしたタラバガニ漁と観光業のあり方についてセル=ヴァランゲルの市長は、持続可能な地域づくりの一環だと考えています。

「漁獲枠がなければ、持続可能な漁業はありえません。自由に乱獲すれば、将来の世代から資源を奪うことになります」と町長は語ります。

観光業についても「観光によって、より多くの人々が高給でやりがいのある仕事を得られ、若い世代が移り住んできます。

これにより、より現代的で都会的な社会を築けると信じています」と、その効果を強調します。

タラバガニ漁の成功を支えているのは、先進的な技術です。

かつて閉鎖されていた水産加工工場は、新しいオーナーによって買い取られ、生きたままのカニを数日間保管する技術が開発されました。

樽に海水と空気を供給することで、カニはトラックで長距離を輸送されても生きたまま市場に届けられます。

さらに、この工場ではQRコードを使ったトレーサビリティも徹底しています。

どの漁師がいつ、どのカニを獲ったかという情報が記録され、消費者は安心して購入できるのです。

この取り組みは、冷凍シーフードが主流だった親世代とは異なり、「食べ物がどこから来るのか」を知りたいと願う若い世代のニーズにも応えています。

しかし、このような成功の裏側には、闇も潜んでいます。

ロシア産のタラバガニは、制裁にもかかわらず、密輸業者によって西側市場に流れ続けているのです。

2019年には、ノルウェーの警察が大規模な密輸ネットワークを摘発しました。

町長は「ロシアに対する制裁に公然と違反する人々は、ウクライナで流された血で金を稼いでいる」と厳しく非難し、タラバガニのような高級品には必ず犯罪者が付きまとうと警鐘を鳴らしています。

そして、成功の「柱」がどれほど堅固なものなのか、という根本的な問いも残ります。

アラスカでは、すでに海水温の上昇によってズワイガニやタラバガニの漁獲が中止される事態が起きています。

ブゴイネス村の海域でも、統計上はわずかではあるものの、海水温は上昇傾向にあります。

この変化がタラバガニにどのような影響を与えるのか、現時点では明確には判断できません。

「厄介者」で奇跡の復活 繁栄はいつまで続くのか

ノルウェーの小さな村、ブゴイネスは、かつて村を滅亡の危機に追い込んだ「厄介者」によって、奇跡的な復活を遂げました。

タラバガニは、村に富と希望をもたらし、多くの雇用を生み出し、社会を活性化させました。

しかし、この繁栄は、持続可能な漁業のルール、テクノロジー、そして何より地球環境のバランスの上に成り立っています。

タラバガニという「柱」がいつまでも村を支え続けられるかどうかは、今後の取り組みにかかっているといえるでしょう。