日銀金融政策(7月)
(日銀)現状維持
日銀は7月30日~31日に開催した金融政策決定会合(MPM)において、金融政策の現状維持を決定した。
これまで同様、無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.5%程度で推移するように促すこととした(全員一致での決定)。
声明文と同時に公表された展望レポートでは、足元の食品価格上昇を受けて、2025年度の物価上昇率を大きく上方修正したうえ、26・27年度分についても小幅に上方修正した。
また、米国と主要国との関税交渉合意を受けて、海外の経済・物価動向を巡る不確実性を「高い」と6月MPMまでの「きわめて高い」から引き下げ、物価見通しのリスクバランスを「概ね上下にバランスしている」と上方修正した(4月展望レポートでは、「2025 年度と 2026 年度は下振れリスクの方が大きい」としていた)。
さらに、物価のリスク要因に関して、「最近の価格上昇には、人件費や物流費を販売価格に転嫁する動きも相応に影響しており、企業の賃金・価格設定行動次第では、価格上昇が想定以上に長引く可能性もある」との一文を加えている。
一方、基調的な物価上昇率の見通し(今後伸び悩んだ後に徐々に高まっていくシナリオ)や物価目標に概ね達する時期(見通し期間の後半)など、見通しの大枠に変更は無かった。
金融政策運営についても、「現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、以上のような経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」、「見通しが実現していくかについては、各国の通商政策等の今後の展開やその影響を巡る不確実性が高い状況が続いていることを踏まえ、内外の経済・物価情勢や金融市場の動向等を丁寧に確認し、予断を持たずに判断していくことが重要」と従来のスタンスを維持している(ただし、4月会合では不確実性について「きわめて高い」としていた)。
会合後の総裁会見において、植田総裁は日米間の関税交渉合意について「大きな前進」と述べ、「わが国経済を巡る不確実性の低下につながる」と前向きに評価した。
一方で、「それでも、いったん成長ペースが今後鈍化し、基調的な物価上昇率が伸び悩むという中心的な見通しに大きな変化はない」、「これまでより低下したとはいえ、各国の通商政策等の影響に関する不確実性はなお高い状況が続いている」、「これまで同様、経済・物価情勢が改善し、基調的な物価上昇率が高まっていくという見通しの確度やリスクを確認しながら、先行きの利上げの是非やタイミングを、毎回の決定会合において適切に判断していく方針」、「その際、通商政策等の影響が各国の経済や国際金融資本市場にどのように表れてくるか、また、そのもとでわが国企業の賃金・価格設定行動における積極的な動きが途切れることがないかどうかといった点をはじめ、内外の経済・物価・金融情勢を幅広く丁寧に確認していく」など、従来の見方を大枠で維持し、丁寧に見定めていく方針を示した。
見通しの実現性についての問いに対しては、総裁は「見通し実現の確度のようなものは少し高まった」と評価しつつも、関税の影響については、「ある程度高い関税がかけられるということはほぼ確定的な中で、その影響がどういうものになるのか(中略)は、これからだと思う」、「一気に霧が晴れるということはなかなかない」との慎重な認識を追加した。
ソフトな情報(マインド調査など)だけで金融政策の判断をすることがあるかについては、「絶対ないとは申し上げられませんが、(中略)ハードデータ(経済指標)にどういう影響が現れてくるかということをみたい」と説明した。
来春闘での賃上げに関しては、「今後、関税の影響を受けて、日本の企業収益、特に製造業のそれが下方に屈折していくということ、そしてそれの賃金への影響が懸念される」、「そこはそれがどの程度の大きさ、強さになるのかというところは、丁寧にみていきたい」と述べた一方で、「(賃金を)上げていくということがある種のノルムになりつつあるという点にも留意しておく」と加えた。
昨年の3月と比べて、今後デフレに戻ってしまうリスクの評価が変わったかという質問に対しては、「直感的には、そのときよりもデフレに戻ってしまうリスクは少し低下した」と評価。
一方で、利上げが後手に回る、いわゆるビハインド・ザ・カーブに陥るリスクに関しては、「現状ではビハインド・ザ・カーブに陥ってるとは思っていませんし、そうなるリスクが高いとまでは思っていない」と否定的な見解を示した。
ただし、「基調的物価が以前よりも 2%に近づいてきている中で、(中略)消費者物価総合の動きが、(中略)基調的物価に(中略)影響を及ぼしてしまうという可能性は、以前よりも注意してみていかないといけない」と付け加えた。
MPM前に1ドル150円に接近していた為替については、「私どもの見通しの中で前提としている為替の水準からすごい大きくずれているわけではないので、例えば物価の見通しに、直ちに大きな影響があるというふうには今のところみておりませんが、注意してみていきたい」と、現状を強くは問題視していない様子がうかがわれた。