10日の米金融市場は、トランプ大統領が対中関税の大幅引き上げを警告したことで一気にリスクオフの動きが広がり、株価が大きく下げた一方、逃避先資産である国債と金が買われた。円はドルに対して急伸し、取引終盤には151円17銭を付けた。

トランプ氏はSNSへの投稿で、中国の習近平国家主席と会談する「理由はない」と述べ、中国の「敵対的な」輸出規制を理由に挙げた。その後、

こうした発言について、インタラクティブ・ブローカーズのチーフストラテジスト、スティーブ・ソスニック氏は「明らかにトレーダーが聞きたくなかった言葉だ」と指摘。「今回の市場の反応は、政策による影響を改めて浮き彫りにするのと同時に、最近の市場の油断も映し出している」とした。

S&P500種株価指数は2.7%下落

このところ、リスク資産が大幅下落する局面はほぼなく、それ自体がこの日の急激な反応を招いた一因となった可能性がある。

S&P500種株価指数は2.7%下落。4月以来の大幅安となった。ナスダック100指数は3.5%安で取引を終了した。

S&P500種構成銘柄のうちの約420銘柄が下落。恐怖指数として知られるシカゴ・オプショ取引所(CBOE)ボラティリティー指数(VIX)は22に上昇した。同指数は20を上回ると、不安心理が高まっていることを示す。

ジョーンズトレーディングののマイケル・オルーク氏は「夏を通じて米株市場では欲望が恐怖をはるかに上回り、過度な楽観で投資家は無防備になっている」と指摘。「今回の売りは、米中貿易休戦が終わるような事態になれば、より大きな調整局面へと発展する可能性がある」と述べた。

ノースライト・アセット・マネジメントのクリス・ザッカレリ氏は、米中間の貿易関係が市場心理に与える影響の大きさを強調。「中国との良好な貿易関係は市場の安定を保つ助けとなるが、貿易戦争に発展すれば市場にとって極めて悪影響となる」と語った。

為替

外国為替市場ではトランプ氏の発言を受けてドルが売られ、円が買われる展開となった。円相場は1ドル=152円台後半で推移していたが、発言が伝わると一気に151円台半ばまで上昇した。さらに取引終盤には、中国製品に100%の追加関税を課すとのトランプ氏の発言を受け、円は一段高となった。

みずほインターナショナルの欧州・中東・アフリカ(EMEA)マクロ戦略責任者、ジョーダン・ロチェスター氏は「(米中首脳会談中止は)地政学的に後退であり、新たな関税措置の具体化に向けた小さな一歩」だと述べた。ただ、関税の大幅な引き上げを「検討している」としたことで、トランプ氏は必要なら「判断を先送りできる余地も残した」とも述べた。

 

円相場をめぐっては、日本の政局流動化も意識されている。自民党と公明党の連立政権解消が決まり、国会での高市早苗自民党総裁の首相指名の行方や新政権の枠組みが一気に不透明になった。衆院の自民の会派は196議席で過半数に37議席足りない。首相指名選挙では比較第1党党首の高市氏が選出される可能性が高いが、公明を含めた野党が統一候補を擁立すれば情勢は変わる。

こうした政治的不透明感が為替に与える影響について、DZ銀行の通貨ストラテジスト、ドロテア・フッタヌス氏は、一時的には円相場にネガティブに作用するが、長くは続かないとの見方を示した。より穏健な財政政策への妥協的合意につながる可能性があるというのが理由だ。

10日のインタビューで同氏は「高市氏が予定通り10月15日に新首相に選出されるかどうかという問題を含む政治的不透明感は、一見すると円にとってマイナス要因だ」と指摘。その上で「しかし、影響は一時的なものにとどまるとみている。いずれにせよ何らかの妥協が成立すれば、高市氏が制約なく政策を主導する場合よりも、より穏健な政策運営になるとみられるためだ」と述べた。

国債

米国債相場は年限全般で上昇(利回りは低下)。米中貿易摩擦への警戒で安全資産とみなされる国債を買う動きが強まった。

ナットアライアンス・セキュリティーズのアンドリュー・ブレナー氏は「大きな経済指標の発表もなく、静かな1日になると思った矢先、市場は大荒れとなった」と指摘。「より大きな影響は株式の反転だった。これは『解放の日(4月にトランプ氏が各国・地域への上乗せ関税を発表した日)』の再来なのか」と語った。

原油

ニューヨーク原油先物相場は続落し、5月以来の安値に沈んだ。トランプ氏の対中警告や、中東情勢の緊張緩和、世界的な供給過剰を巡る懸念を背景に、弱気なムードが広がった。

米中の関税戦争が原油需要を圧迫するとの懸念が再燃。アゲイン・キャピタルの創業パートナー、ジョン・キルダフ氏は「トランプ氏が今回の警告を実行に移せば、経済に悪影響をもたらし、原油や石油製品の需要に打撃となるだろう」と述べた。

 

市場はこれまで、米国が中国に対して極端な関税を賦課する可能性はほぼなくなったとみていた。トランプ氏と中国の習主席は先に実施した電話会談で友好的なやり取りを交わし、トランプ氏は今月末に開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で習氏と会談すると明らかにしていた。

ブリッジトン・リサーチ・グループのデータによれば、価格変動を増幅させる傾向のある商品投資顧問業者(CTA)はウェストテキサスインターミディエート(WTI)のロングポジションを解消し、10日時点でショートの比率を91%に引き上げた。9日時点での同比率は55%だった。

CIBCプライベート・ウェルス・グループのシニア・エネルギー・トレーダー、レベッカ・バビン氏は「原油はきょう、三重苦に直面している。貿易摩擦の再燃が需要見通しを圧迫しているほか、リスク資産全般に売りが広がり押し目買いの動きが抑制されている。さらに、システマティック戦略勢がショートポジションを積み増しているようだ」と指摘。「押し目買いの材料がなければ、サポートが得られずに過剰な値動きになる可能性がある」と述べた。

ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物11月限は前日比2.61ドル(4.2%)安の1バレル=58.90ドルと、60ドルを割り込んで終えた。ロンドンICEの北海ブレント12月限は2.49ドル(3.8%)下落の62.73ドル。

金相場は反発。スポット相場は一時下げる場面もあったが、総じて堅調に推移した。金融市場の動揺で、安全資産とされる金の妙味が高まった。

金スポット価格はニューヨーク時間午後3時23分現在、前日比31.12ドル(0.8%)高の1オンス=4007.98ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は27.80ドル(0.7%)上げて4000.40ドルで引けた。

原題:Stocks Swoon as Trade Jitters Spur Rush to Bonds: Markets Wrap

Wall Street Traders Jolted as Tariff War Flares: Markets Wrap

Trump Trade Threats Dent Nascent Dollar Rally: Inside G-10

Top Yen Forecaster Says Weakness Over Politics Is ‘Temporary’

Oil Extends Decline As US-China Trade Tensions Flare Again(抜粋)

(トランプ氏の発言を追加し、円相場を更新します)

--取材協力:Denitsa Tsekova、Vildana Hajric.

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