(ブルームバーグ):石破茂首相が参院選での自民党大敗後も続投の意向を示す中、党内では退陣論がやまない。8月政局を乗り切り、次の臨時国会に臨むことができるか。当面は8日の両院議員総会など三つの関門が待ち受ける。

首相は続投の理由として米関税措置への対応などを挙げ、赤沢亮正経済再生担当相を米国に派遣した。20日から22日は横浜市でアフリカ開発会議(TICAD)を開催する。国会では立憲民主党などと企業・団体献金の扱いや物価高対策について協議する意向も明らかにした。
一方で、米国との関税合意を巡っては基幹産業である自動車・自動車部品の関税引き下げ時期が明確になっていない。分野別関税を課さない品目への税率15%の扱いも日米間で解釈の違いが表面化した。今後、政権の交渉姿勢への批判が強まる可能性がある。
みずほ証券の松尾勇佑シニアマーケットエコノミストは、当初の反応として首相続投で株安・債券高、辞任で株高・債券安の方向を想定している一方、政局の現状について「定まった方向性が見えにくくなっている」と分析した。両院総会の動向や月内の選挙総括後に明らかになる森山裕幹事長の進退が焦点だと述べた。
1:両院議員総会
自民党は8日午後、「参院選の総括と今後の党運営について」を議題とする両院議員総会を開く。7月28日の懇談会と異なり、総会では重要事項を議決することができる。ただ、党事務局は、党則上、総会で総裁を解任することはできないと所属議員らに説明している。
懇談会ではすでに4時間半にわたり参院選の結果を受けた党運営の在り方などについて議論した。総会で有意義な議決などがなければ建設的でないとの不満も党内でくすぶる。山田宏参院議員は「臨時総裁選を臨時国会までに実施する決議」の議決を主張している。
2:総裁選の前倒し開催要求
両院議員総会を乗り切っても、石破首相に退陣を求める勢力が総裁選の前倒しを要求することはできる。第6条4項によると、党所属の国会議員と都道府県連代表各1名の総数の過半数をもって任期満了前に総裁選を行うことが可能だ。
旧安倍派幹部だった西村康稔元経済産業相は7月28日、「選挙で3連敗した責任はうやむやにできない」とし、「もし石破総理が使命感を感じておられるなら、むしろ総裁選に立候補し勝利して党内の基盤を確固たるものとすることを目指すべきではないか」とフェイスブックに投稿した
一方、現時点で署名に向けた動きは一部にとどまる。総会後はお盆に入り、多くの議員が地元に戻る。
3:選挙総括・人事
最大の関門となるのは8月下旬に想定される参院選総括だ。森山幹事長はその際に自身の進退を含む責任の取り方を明らかにする考えで、石破首相自身が進退を明らかにするかも焦点となる。
衆院で少数与党となる中、森山氏は野党との協議などを通じ、石破政権を支えてきた。仮に辞任となれば、後任選びが難航して石破首相の政権運営は一層厳しくなる可能性がある。
第1次安倍晋三政権下の2007年参院選で大敗した後、安倍氏は選挙総括後の8月下旬に党幹事長や官房長官の交代を含む内閣改造・党役員人事を行った。政権立て直しを図ったが、自身の体調悪化もあり、約2週間後に退陣表明した。
選挙総括委員会は森山氏を委員長、木原誠二選対委員長を幹事とし、8月中をめどに報告書を策定する。NHKによると、松山政司参院議員会長は取りまとめは同月の最終週になるとの見通しを示した。
みずほ証券の松尾氏は、減税を含めた財政拡張的な動きは消費税減税に慎重姿勢を示してきた森山氏が辞任なら「思惑が高まりやすい」とし、首相退陣となれば一段と拍車がかかるとの見方を示した。
関門突破なら次の国会へ
三つの関門を突破すれば、 衆参両院で少数与党となる次の臨時国会が控えている。自民、公明両党は参院選で掲げた給付の実現を目指すが、裏付けとなる補正予算案の成立には一部野党の賛成が必要だ。
野党との協力に向けては、立民、国民民主、日本維新の会、共産の野党4党とガソリンの暫定税率を年内に廃止することで30日合意し、財源確保などに向けた実務者協議を開始。立民が主張する給付金や消費税減税、中低所得者対策としての「給付付き税額控除」導入の可能性についても、首相は協議に応じる考えを示した。
辞任なら首相指名選挙に
仮に石破首相の辞任表明や自民総裁選の前倒し実施が決まり、新たな総裁が選出されれば国会での首相指名選挙に臨む運びとなる。
昨年の総裁選で石破首相と決選投票を争った高市早苗前経済安全保障担当相、随意契約による備蓄米の売り渡しが一定の評価を得た小泉進次郎農相に加え、林芳正官房長官、加藤勝信財務相、小林鷹之元経済安全保障担当相、岸田文雄前首相らが名乗りを上げる可能性がある。前倒し総裁選なら石破首相も再度立候補できる。
ただ、与党が過半数割れしている状況下で首相指名選挙が行われた場合、野党が一致して対応すれば自民以外の議員が新首相に選出される可能性もある。石破首相の続投でも新首相選出でも、内閣不信任決議案が成立するリスクは続く。安定政権を目指す場合、連立与党の枠組み拡大を模索することになる。

(米国による関税措置に関する詳細を追加しました)
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