パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長率いる金融当局は30日、事前予想通り5会合連続となる政策金利据え置きを決めた。

利下げ注文を繰り返すトランプ大統領の圧力に屈せず、労働市場の軟化を理由としたFRB理事2人の利下げの主張も退け、トランプ政権の関税措置に伴うインフレ高進リスクに引き続き警戒する必要性を指摘した。

連邦公開市場委員会(FOMC)はフェデラルファンド(FF)金利誘導目標レンジを4.25-4.5%に据え置くことを賛成9、反対2の賛成多数で決定。いずれもトランプ政権1期目に指名されたウォラー理事とボウマン副議長(銀行監督担当)が0.25ポイント利下げを支持して反対票を投じた。

理事2人が委員会の決定に反対するのは1993年以来32年ぶり。

パウエル議長は決定発表後の記者会見で、トランプ氏の関税措置と経済への影響を巡り不確実性が残る中、金融政策が現時点で適切な位置にあるとの見解を強調した。

議長が発したメッセージは慎重にバランスを取った内容で、9月16、17両日の次回FOMC会合での利下げ期待を抑えつつも、その可能性を完全には否定しなかった。

FOMC会合後に記者会見したパウエルFRB議長

「インフレへの影響は、価格水準の一時的な変化を反映し、短期的なものにとどまるというのが妥当な基本シナリオだが、インフレ効果が一段と持続的になる可能性もあり、これは評価・管理すべきリスクだ」とパウエル議長は述べた。

パウエル議長は、9月会合までに複数の経済指標が発表される予定で、その中には2カ月分の雇用統計とインフレ統計も含まれていると指摘。「9月の会合で決定を下す際には、そうした情報やその他に得られるあらゆる情報を考慮する」と説明した。

投資家は9月会合での利下げの可能性を示すシグナルを期待していたが、パウエル議長の発言を受けて米国債相場は下落し、ドルは5月以来の高水準に上昇。S&P500種株価指数は続落した。

金利先物市場で投資家が織り込む9月利下げの確率は約40%と、FOMCの決定発表前の60%前後から低下した。

FRBでエコノミストを務め、現在はニュー・センチュリー・アドバイザーズのチーフエコノミスト、クラウディア・サーム氏はパウエル議長の会見内容について、中立的な立場を維持し、金融当局が行動に移る前に、経済についてまだ多くを学ぶ必要があるとのメッセージを発信したと指摘した。

サーム氏は「見解の相違を解消するには、さらなるデータが必要で、それには時間がかかる」とし、「現時点では、単にあらゆる選択肢を残しておきたいだけなのかもしれない」と論じた。

インフレ抑制のコミットメント

トランプ氏が多数の貿易相手国・地域に新たな関税措置を打ち出したことで、経済見通しや米金融当局の政策判断に不確実性が生じている。トランプ政権は8月1日の期限を前に複数の貿易相手と関税交渉を進めており、日本や欧州連合(EU)とは重要な合意に達している。

パウエル議長は一連の交渉に関し、「事態が落ち着く地点がどこなのか、まだ分からない」とした上で、「多くのことが分かってきているものの、そのプロセスの終わりに非常に近づいているとは感じられない」と話した。

先に発表された6月の米消費者物価指数(CPI)では、企業が一段と有意な形で関税に伴うコストの一部を消費者に転嫁し始めている状況が浮き彫りとなった。パウエル議長は、当局として「利上げしないことで物品インフレをある程度無視しているようなものだ」との立場を示唆した。

議長は今後について、関税が「深刻なインフレ」につながらないよう当局として対処すると言明。利下げが早過ぎれば2%のインフレ目標達成が妨げられる一方、遅過ぎれば労働市場に悪影響を及ぼす恐れがあるとして、当局はそのバランスを取ることを目指していると語った。

「われわれが目指しているのは、それを効率的な形で実現することだ」と述べた上で、「最終的には、インフレを抑制するために必要な措置は必ず講じるという点について疑念の余地はない」と強調した。

バンク・オブ・アメリカ(BofA)のアナリストは顧客向けリポートで、「この日のキーワードは『効率的』だった。拙速に利下げして後から利上げせざるを得なくなるよりも、現状維持を続けるほうが効率的だ」と解説した。

反対意見

トランプ氏は執拗(しつよう)に利下げ要求を繰り返している。30日のFOMCの金利決定以前にも、「今、利下げする必要がある」と自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に投稿していた。

6月17、18両日のFOMC会合以降、ウォラー、ボウマン両氏は今月の会合での利下げ検討の必要性に言及し、金利据え置きなら反対票を投じる可能性を示唆していた。

ボウマン氏は労働市場に脆弱(ぜいじゃく)さを示す兆候が見られると指摘し、ウォラー氏も民間部門の雇用増加の鈍化が米雇用情勢に内在する弱さを示していると述べていた。

パウエル議長は30日、労働市場の「確かに明らか」な下振れリスクに当局が注目していると発言。一方で、労働市場は堅調であり、金融当局は2大責務のうち、2%のインフレ目標よりも、最大雇用の実現という目標に近づいていると語った。

「インフレ抑制には引き締め策が必要であるため、政策は引き締め気味であるべきだということを意味する」とし、「インフレと雇用の両面に対するリスクが一段と均衡していると判断するようになれば、それは政策を景気抑制的にすべきではないことを意味するだろう」とも話した。

INGのチーフ国際エコノミスト、ジェームズ・ナイトリー氏は、こうした見解の違いは金融当局が直面している状況の緊急性を巡る意見の相違を反映していると分析。「これは完全な意見の対立というより、タイミングの問題だ」とし、「パウエル議長も状況を注視しているが、差し迫った対応の必要性はあまり感じていない様子だ」と論評した。

原題:Powell Bucks Pressure, Dissents in Showing Resolve on Inflation(抜粋)

--取材協力:Jonnelle Marte、Maria Paula Mijares Torres、Georgina Boos、Maria Eloisa Capurro.

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