(ブルームバーグ):トランプ政権は今月、全米各地の地域で進められていた街路の安全対策や歩行者用トレイル、自転車レーンの整備に対する補助金を相次いで打ち切った。理由は一貫しており、「これらのプロジェクトは自動車向けに設計されていない」というものだった。
カリフォルニア州サンディエゴ郡で予定されていた自転車レーンを含む道路改良計画について、米運輸省の担当者は「車線容量を減らし、自動車にとって不利な『ロードダイエット』にあたる」として、約1年前に認可した120万ドル(約1億7700万円)の助成金を撤回。アラバマ州フェアフィールドでは、車線を歩道トレイルに転換する計画が「自動車にとって敵対的であり、車両通行容量の維持・増加を優先する運輸省の方針に反する」と判断された。
ボストン市でも、マタパンスクエア地区での歩行者・自転車・公共交通向け改善計画に対して「現行の自動車中心の道路構成を変える内容」だとして、以前交付が決定されていた助成金が取り消された。市内の交差点で安全対策を進める別の助成金についても、「車両の通行容量と速度を妨げかねない」として運輸省は支給を打ち切った。
トランプ大統領は、電気自動車(EV)の充電インフラやクリーンエネルギー関連プロジェクトへの資金提供を撤回するなど、バイデン前政権の政策を覆す姿勢を隠していない。
しかし、9日に米運輸省が発表した一連の助成金取り消し措置は、運転手のみの自動車利用を推進し、住民の移動手段を多様化させようとする地方自治体の取り組みを抑え込もうとする政権の強い姿勢をあらためて示すものとなった。
運輸省報道官は、コメントの要請に応じていない。
高まる需要
トランプ氏が今年1月にホワイトハウスに返り咲いて以来、公共交通の支持者や地方自治体の関係者の間では、政策転換の兆しが感じられていた。ダフィー運輸長官はニューヨーク州都市交通局(MTA)をはじめとする大都市圏の交通機関を繰り返し非難し、自動車中心に設計されたプロジェクトを優先する方針を示唆していた。
それでも、地方自治体や交通団体の関係者は、既に認可された助成金の取り消しに際して運輸省が用いた文言に驚き、歩行者や自転車利用者の安全向上を目的としたプログラムが標的となっているように見えることに強い懸念を示している。というのも、交通事故による負傷や死亡が増加傾向にある中での決定だったためだ。
今回の措置で政権が標的としているのは、州や郡が申請して獲得する「裁量型助成金」だ。ただ、歩行者や自転車の安全対策に対する今回の攻撃的な姿勢は、皮肉なことに共和党やトランプ支持層の多い自治体でもこうしたインフラの需要が高まっている点を考えると、矛盾していると、非営利団体「レールズ・トゥ・トレイルズ・コンザーバンシー」の政策担当副会長ケビン・ミルズ氏は指摘する。
同氏はインタビューで、「自動車以外のインフラ開発をリベラルな政治と結びつける言説があるが、地方レベルでは実際にそのような対立は存在しない」と語った。たとえばフロリダ州は共和党が強いが、自転車や歩行者のための複合用途トレイルの整備計画は「非常に積極的だ」と述べた。
交通計画の現場では、自動車専用ではない代替型の交通プロジェクトが自動車の混雑緩和にもつながるとして採用される例が増えており、ミルズ氏は「そうしたアプローチの方が効果的な場合も多い」と話す。「今回取り消されたプロジェクトの方が、むしろその効果を発揮できたかもしれない」と述べた。
助成金の受給者は、必ずしも政府の決定を黙って受け入れているわけではない。
ボストン市長の報道官は電子メールで、「市は近隣の通りに歩道や照明を整備し、バス停を改善し、樹木を植えるために、これらの競争型連邦助成金を獲得した」と述べ、「連邦政府による今回の取り消しは、議会の明確な意図を再び無視するものであり、市は対応策を検討している」とした。
ニューメキシコ州アルバカーキ市中心部の鉄道建設にたずさわる当局者、テリー・ブルナー氏は落胆しながらも、前向きに受け止めている。トランプ政権が発足し、助成金が「見直し対象」となって以降、助成金契約の最終化に向けた作業はまったく進まず、実際に資金を受け取る段階に至らなかったという。さらに政権による連邦職員の大規模削減が重なり、運輸省の処理能力自体が低下していたと述べた。今後は、少なくとも他の資金調達先の検討に集中できると話す。
「正直なところ、連邦政府はこの9カ月間ずっと私たちを無視し続けてきた」とブルナー氏。「前向きに捉えれば、連邦の手が離れたことで、むしろプロジェクトが少しは前に進むかもしれない」と語った。
原題:Trump Cancels Trail, Bike-Lane Grants Deemed ‘Hostile’ to Cars(抜粋)
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