ニューヨーク市パークアベニュー345番地のオフィスビルで28日に発生した銃撃事件では、米金融街の中心的な商業地区であっても、企業幹部や従業員が無防備になる危険が露呈した。マンハッタンのビル群は警備体制見直しを迫られている。

銃撃が起きたオフィスビルは、米投資会社ブラックストーンやコンサルティング会社KPMG、不動産オーナーのルーディン・マネジメント、米プロフットボールNFLが拠点を構える。

容疑者の男はロビーで発砲した後、エレベーターで33階に上がり、自ら命を絶った。昨年12月にユナイテッドヘルス・グループ幹部が標的となり、路上で殺害された現場から800メートルほどしか離れておらず、安全対策の強化を求める声が再び高まると予想される。

ビル管理者と企業、自治体による二重、三重のセキュリティー対策が連動し、安全を守るために機能するはずだったが、その限界が今回浮き彫りになった。銃を携帯した非番警官も配置されていたが、シェーン・タムラ容疑者(27)の建物ロビーや上層階への侵入が阻まれることはなかった。

近隣のパークアベニュー430番地にオフィスを構える不動産投資会社サバンナ・リアルエステートの創業者クリス・シュランク氏は「われわれのビルも安全対策を講じているが、武装した警備員は配置していない」と説明。サバンナの所有不動産ごとにどのような対策が必要か特定を促すという。

タムラ容疑者がどうしてキーカード対応のターンスタイル(改札)型ゲートを通過し、エレベーターに乗れたかは不明だ。あるセキュリティー専門家によれば、オフィスのターンスタイルは光学式リーダー(読み取り装置)が多く、侵入を防止する大した障壁にならない。誰かが呼んだエレベーターに便乗して侵入する「テールゲーティング(尾行型侵入)」もよくある手口とされる。

ボーイングで最高セキュリティー責任者を務めたコーポレート・セキュリティー・アドバイザーズのパートナー、デーブ・コメンダット氏は「武装した相手に対し、行きたい場所への侵入を阻止できる物理的警備手段はオフィスビルにほとんど存在しない」と指摘する。

複数のセキュリティー専門家によると、パークアベニュー345番地の警備体制は総じて強固だった。銃を携帯し、制服を着た非番警官を安全対策でロビーに配置する企業は珍しい。しかしアライド・ユニバーサルの警備強化サービス部門プレジデント、グレン・クチェラ氏は、強力なライフルを持った人物が侵入した時点で「全ての前提が崩れ、あとはサバイバル(生き残り)モードに入る」と警戒を促す。

リスク管理マネジメント会社クロールのジェイコブ・シルバーマン最高経営責任者(CEO)は「これらの出来事は、いかなる組織にとっても、人を守ることをどう考えるかあらためて見直す契機になる。セキュリティー強化のため、他にできることはないか問われている」と見解を示した。

原題:NYC Shooting Has Security Experts Asking ‘What Else Can We Do?’

--取材協力:Natalie Wong、Katia Porzecanski.

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