トランプ大統領の意図

すべての交渉では、相手の思惑を読んで、その利益を損なわないような落とし所を考えることが必要になる。

自分の利害ばかりを唱えても、相手は動いてくれない。そうした意味で、トランプ大統領の狙いとは何だったのだろうか。

筆者なりの答えは、各国からの対米投資をより多く引き出すことだったと考える。

つまり、当初25%の相互関税率を掛けると息巻いていたトランプ大統領は、自動車関税の25%を含めて、15%に引き下げた(完成車は12.5%へ半減)。

この妥協は、5,500億ドルの対米投資を日本に行わせることが目的だったと考えられる。

トランプ大統領は、2026年11月に中間選挙を控えている。

それまでに、「ディールを通じて、これだけ投資を呼び込んだ!」と選挙民に誇示したいのだろう。

まずは人為的に威圧的な相互関税を貿易相手国に提示して、それを引き下げる見返りに、対米投資を約束させる。

今回の対米投資9分野は、トランプ大統領が個別に輸入関税を引き上げて、国内保護を試みようとしている分野と重なる。

自国の重点育成分野だからこそ、同盟国の日本企業を米国内に呼び込んで、そこで事業展開をさせたいのだろう。

日本企業が進出してくれば、その技術力が米国内にスピルオーバーすることが期待できる。

USスチール買収の場合は、日本の自動車用薄板鋼板や電磁鋼板などEV車生産・高度化のための技術が欲しかったとされる。

今回は、経済安全保障に絡んで、アジア諸国を含めて、半導体、エネルギー開発、医薬品・バイオ分野の技術を手に入れたいのだろう。

トランプ大統領は、今、FRBに猛烈な政治的圧力をかけている。

その理由は、先に示した投資ファンドの数値例を考えればよくわかるはずだ。

ドルの資金調達の金利を、現在の4%から2%へと低下させられれば、米国が出資する9割の部分へのリターンは飛躍的に増加する。これが、トランプ大統領がたくらんでいるシナリオなのかもしれない。