昨年7月3日に新紙幣が発行されてからもうじき一年が経過する。新紙幣発行に伴って「現金」に対する世間の注目度は高まったものの、「現金離れ」はますます進んでおり、今年5月の現金流通高は前年比1.8%減で19カ月連続での前年割れとなっている。

現金離れの動きが継続している背景には、「キャッシュレス化の進展」、「物価上昇率の高止まり」、「硬貨預け入れ手数料の導入」の三つの要因が挙げられる。今後も少なくともキャッシュレス化と物価上昇が継続し、現金需要を抑制し続けると考えられる。

一方、キャッシュレス決済に対する現金の優位性としては、「使用不能になるリスクが低い」こと、「技術的・経済的ハードルが無い」こと、「使いすぎる心配が少ない」こと、「匿名性が高い」こと、「贈答や冠婚葬祭などの場面に適している」ことが挙げられる。

このため、現金に対する需要は根強く残り続ける可能性が高い。なかでも、「使用不能になるリスクが低い」ことと「技術的・経済的ハードルが無い」ことは現金の持つ根本的な強みと言える。

将来、仮に「電源が不要でシステム障害のリスクが無く、誰でもごく容易に使える支払い手段」が開発されて普及すれば、現金の存在消滅に繋がり得る。ただし、そのような手段を開発する難易度は非常に高いとみられ、少なくとも感覚的にイメージできる今後百年位の間は難しいのではないだろうか。

従って、今後もキャッシュレス化や物価上昇を受けて現金が使われる機会は減っていくものの、現金自体は根強く残り続け、次第に、より限られた場面・限られた人が使うものになっていくと考えられる。

また、現金という存在が残る以上は偽造防止措置が必要になるため、今後も定期的に偽造防止技術を高めた新紙幣・新硬貨が発行され、その都度人々の注目を集めることが予想される。