オーストラリア最大級の年金基金ユニスーパーは、現金保有比率を新型コロナウイルス流行時に近い水準まで引き上げている。トランプ米大統領の貿易戦争が世界市場を揺るがしていることが背景だ。

運用資産総額1490億豪ドル(約13兆8000億円)の同基金で最高投資責任者(CIO)を務めるジョン・ピアース氏は、現金を「唯一の無リスク資産」と位置付け、米国のインフレ率上昇が株式と債券の両方に同時に悪影響を及ぼすリスクを警戒していると語った。

「トランプトレードは多少なりともキャッシュを積み増すことだ」と述べ、「インフレが加速すれば、債券と株式の動きが連動し始める。最終的にはキャッシュ、もしくは非常に短期の債券が頼みの綱になる」との考えを示した。

 

米国資産の魅力に対する疑念が強まる中で、ユニスーパーは現金保有を重視。米国債相場の乱高下やドル安により、投資先に関するこれまでの常識が揺らいでいる。

ヘッジファンドの米シタデルを創業したケン・グリフィン氏も最近、関税を巡る混乱の中では現金が最も賢明な選択肢かもしれないとの認識を示した。金(ゴールド)や上場投資信託(ETF)といった安全資産への投資資金流入が進んでいる。

ピアース氏は「債券は、われわれが本来期待していたようなショック吸収役を果たしていないことが明らかになった」と話した。

日米交渉に注目

ユニスーパーは現在、株式市場に再び投資する機会を探っており、株式相場が現在より10%下落すれば参入の契機となり得ると見込んでいる。

貿易交渉が期待外れに終わったり、インフレが想定を上回ったりした場合に、そうした株安になる可能性があるとピアース氏は分析。「市場は米国と日本の交渉が実際に良い結果を生むと織り込んでいる」と述べ、「もし結果が市場の期待ほど良くなければ、調整があるだろう」と指摘した。

ユニスーパーは加入者65万人余りの退職資金を運用しているが、具体的な現金保有比率は公表していない。ただし、ピアース氏は「かなり上がってきている」と説明し、コロナ禍のピークに近い水準に達しつつあると示唆した。

トランプ政権が4月上旬に関税措置を発表した後、ピアース氏は米国資産への投資を再考する考えを示し、トランプ氏は「ビジネスにとって最低であることが判明しつつある」と語っていた。

豪健全性規制庁(APRA)のデータによれば、豪州の年金基金全体では、昨年末時点の現金保有比率は平均8%と、2020年3月の約14%から低下している。

原題:Cash Is Key Trump Trade for $96 Billion Australian Pension Fund(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2025 Bloomberg L.P.