AIリアルタイム詐欺アラート機能の実装戦略
既存啓発の高度化に加え、より能動的かつ技術的な防衛策として、情報端末への「AI詐欺アラート機能」の標準搭載または高度セキュリティアプリとしての実装・普及を最重要戦略として提言する。
この機能は、詐欺の疑いがあるコミュニケーションをリアルタイムで検知・警告するものである。
1) AI詐欺アラート機能の核心技術と実装イメージ
本機能は、最先端AI技術を駆使した多層的な検知・警告システムを想定するものである。
第一は、ビデオ通話のリアルタイム・マルチモーダル解析である。
AIが映像(身分証の微細な偽造痕跡、背景の矛盾等)、音声(声紋分析による不審者特定、脅迫・誘導キーワードの高度な意味理解、会話構造分析による「かけ直し」等の詐欺特有パターンの検出)を統合的に常時監視・分析する。
そのうえで危険度をスコアリングし、閾値を超えた場合、「緊急警告:検察官を名乗る人物とのビデオ通話は、AI分析により詐欺の可能性9X%と判定。
提示された身分証は偽造の疑い濃厚。金銭・個人情報の要求には絶対に応じないでください!」等の具体的かつ強い警告を画面にオーバーレイ表示する。
第二は、音声通話・テキストメッセージの高度コンテキスト分析である。
表層的なキーワードだけでなく、文脈、感情、会話の意図をAIが深層学習モデルで解析し、詐欺特有のコミュニケーションパターンを早期に検知し警告する。
第三は、動的脅威インテリジェンス連携による発信者リスク評価である。
「+」で始まる国際電話、詐欺に多用される番号帯、ダークウェブで取引される不正取得アカウント情報等を、国内外の脅威インテリジェンス・プラットフォームとリアルタイムで照合し、プロアクティブにリスクを警告する。
これらの機能により、まずは利用者自身では詐欺と判別が困難な状況下でも、AIが客観的に危険を評価し、被害が顕在化する前に利用者が適切な対処を取ることを可能にする。
2) 利用者中心のインターフェースと迅速なエスカレーション支援
警告は単なる通知に留まらず、「通話を即時ブロック/切断」「会話記録の自動保全(証拠化支援)」「信頼できる連絡先への緊急通知」「#9110等の専門機関へのワンタッチ通報(状況サマリー自動生成)」といった、利用者の次の行動を直感的かつ確実に支援するインターフェースを備える。
これにより利用者が詐欺の脅威に直面した際に、パニックに陥ることなく、冷静かつ確実な対応を迅速に実行できるため、被害の拡大を最小限に抑えるとともに、証拠保全や捜査協力への道筋を確保し、二次被害の防止にも貢献するが期待される。
3) 期待される効果と社会実装への道筋
本機能の社会実装は、個々の被害防止に留まらず、詐欺犯行のROI(投資対効果)を著しく低下させ、犯罪抑止にも繋がる戦略的意義をもつ。
また、検知された詐欺試行データは、匿名化・統計処理の上でさらなるAIモデルの強化や、捜査機関による犯行グループの特定・検挙に貢献し得る。
実現には、通信事業者、端末メーカー、OS開発企業、セキュリティ企業、そして政府・警察機関による強力なリーダーシップと連携体制の構築が不可欠である(図表4)。

安全なデジタル社会実現に向けた官民一体の戦略的行動
ニセ警察・検察詐欺は、高度な心理操作と技術を駆使する現代社会特有の脅威である。
AIによるビデオ通話分析は、その手口の巧妙さと危険性を客観的に明らかにした。
この脅威に対抗するためには、既存の啓発活動の質的向上に加え、本稿で提言した「AIリアルタイム詐欺アラート機能」のような革新的技術を社会インフラとして実装することが不可欠である。
これは単なる技術導入に留まらず、社会全体の防犯リテラシーとレジリエンスを向上させる戦略的投資と位置づけるべきである。
政府は、本機能の開発・普及を国家戦略として推進し、必要な法制度整備や研究開発支援、国際連携を主導するべきである。
同時に、企業は社会的責任として本技術の導入に積極的に取り組み、利用者の安全確保に貢献することが求められる。
この官民一体となった戦略的行動を通じてこそ、巧妙化する詐欺の脅威から国民を守り、真に安全で安心なデジタル社会を実現することができる。
本レポートが、その実現に向けた一石となることを期待する。
(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー 柏村 祐)