(ブルームバーグ):米宇宙開発企業スペースXの巨大ロケット「スターシップ」が試験飛行中に爆発した。これで3回連続の失敗となる。同社を率いるイーロン・マスク氏はワシントンでの政治活動を縮小し、自身のビジネス帝国に集中する姿勢を示しているが、壮大な宇宙開発の野望達成に向け困難な課題が残されていることが浮き彫りとなった。
27日遅く、テキサス州南部の発射施設からスターシップがごう音とともに打ち上げられると、従業員らは過去2度の不完全なミッションを上回る成果に歓声を上げた。しかし飛行の途中で燃料漏れが発生、姿勢が制御不能となり、爆発した。
スペースXは、以前利用したブースター「スーパーヘビー」を整備して打ち上げに再利用していた。これは、迅速かつ再利用可能な打ち上げシステムというマスク氏の夢の前進に向けた重要な一歩だった。だがこのブースターも、予定されていたメキシコ湾への着水を果たす前に破壊された。さらに深刻なのは、スターシップのハッチが開かず、ダミー衛星を放出できなかったことだ。ダミー衛星の放出は、スペースXのインターネット事業「スターリンク」の拡張を目的とした改良型衛星の展開能力を試す極めて重要なテストの一部だった。
失敗に終わった今回のミッションは、スターシップ開発の進捗(しんちょく)に大きな疑問を投げ掛けるものだ。また、来年にも火星への貨物輸送が可能になるというマスク氏の度重なる主張に一層の疑念を抱かせる状況も生み出している。さらに、スペースXが採用している「飛行、失敗、修正」という反復型のロケット開発手法に伴うリスクや、この機体が実用的な飛行に対応できるまでにはまだ長い道のりが残されていることも浮き彫りとなった。

今回の打ち上げについてマスク氏は自身のソーシャルメディアXで、スターシップの飛行時間や耐熱シールドの強度を称賛。結果に対する不満は記されていない。
「精査すべき良いデータが数多くある」と同氏は述べ、「今後3回の打ち上げは、より短い間隔で行われる」と説明した。
またスペースXは同社ウェブサイトへの投稿で、試験には「予測不可能な面があるが、得られた教訓全てが、人類を多惑星種にするというスターシップの目標に向けた前進を意味する」と記した。
スターシップへの注力
エンジニアらが原因究明に着手する中、今後マスク氏がスターシップやスペースXにどれだけ時間を割くのかを巡っては疑問が残る。
マスク氏は5月、ブルームバーグ・ニュースのインタビューで、政治に関しては「十分やった」と述べ、政治献金やトランプ政権との関わりに費やす時間を減らす意向を示していた。トランプ政権に対する批判も強めており、CBSニュースに対して「率直なところ、大型歳出法案には失望した。あれでは財政赤字は減るどころか、むしろ増える」と語っている。
自身のビジネスにより多くの時間を割くと表明したことを受けて、電気自動車メーカー(EV)テスラの株価は急伸。同社に対する消費者からの反発が和らぐとの期待が広がった。
一方でスペースXは、従業員に会社の将来やマスク氏の火星計画について説明するデジタル形式のタウンホール会合を27日に予定していたが、実施されなかった。
スターシップは、貨物と人を火星に送り地球に帰還させるというマスク氏の長年の夢において非常に重要な存在だ。同氏は、2026年にもテスラ製ロボットを搭載したスターシップを火星に送る考えを示している。
スペースXはまた、早ければ27年に米航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士を月面に着陸させるための約40億ドル(約5800億円)規模の契約を受注している。宇宙分野が世界的な地政学的緊張の新たな舞台となる中、スペースXは米国の宇宙開発の中核を担う存在となっている。
同社によればスターシップは完全再利用を前提に設計されており、他のロケットよりも低コストでの打ち上げが可能。最終的には業界を主導する同社の「ファルコン9」および「ファルコンヘビー」に取って代わる見通しだ。マスク氏は5月、ブルームバーグ・ニュースに対し、年内に「スターシップを完全に再利用可能にし、ブースターと機体の両方を回収できるようにする」予定だと語っていた。
だが27日のミッション失敗は、その目標達成に向けた道のりが依然として遠いことを浮き彫りにした。スターシップを深宇宙で航行させるには、軌道上で複数回の燃料補給を実施する能力に加え、生命維持システムの開発も必要となる。こうした前例のない技術の確立には、長い年月と数十億ドル規模の投資が必要になるとみられている。
米連邦航空局(FAA)は、テキサス州の施設からのスターシップ打ち上げ回数を、これまでの年5回から25回に増やすことを承認しており、今後発射頻度の向上が見込まれている。
27日のスターシップ打ち上げのライブ配信でコメンテーターを務めたダン・フオ氏は、「われわれは不可能と思えるほど困難なことに挑戦している」と視聴者に語った。
原題:Musk Vows to Refocus on SpaceX After Third Mid-Flight Explosion(抜粋)
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