(ブルームバーグ):世界の経済・金融指導者たちは、100年ぶりと言える世界貿易危機からの「出口戦略」を模索している。リーダーたちは今週、危機の震源地に集まる。
米国の首都ワシントンで21-26日、国際通貨基金(IMF)と世界銀行の春季会合が開かれる。トランプ米大統領の関税政策は市場を混乱させ、景気後退への懸念を呼び起こしただけでなく、第2次世界大戦後の国際秩序の柱だった米国の経済・安全保障面の指導力にかつてない疑問を投げかけている。
大西洋評議会ジオエコノミクスセンターの上級ディレクターで元IMF顧問のジョシュ・リプスキー氏は「近年で最も衝撃的かつ劇的な会合の一つになるだろう」とし、「米国が構築した多国間ルールに基づくシステムが、今まさに深刻な挑戦を受けている」と指摘した。
貿易問題が今回の会合で最重要議題となることは必至で、多くの国々が米国との協議の機会をうかがっている。トランプ氏は今月導入した関税の大きな部分を一時停止としており、対中包囲網を築こうとする一方で、2国間交渉を好む姿勢も鮮明だ。
また、米国外の財務相や中央銀行総裁にとっては、米国抜きでグローバルな金融体制をどう維持していくかを話し合う機会でもある。
バンク・J・サフラ・サラシンのチーフエコノミスト、カルステン・ユニウス氏(チューリヒ在勤)は「ワシントンに集うすべての人々は、既存の世界秩序の維持に関心を持っている。トランプ氏を刺激せずにどう実現するかが課題だ」と話した。
中国が主導権獲得の動き
中国は、グローバル化と自由貿易によって米国が不当に損をしてきたとするトランプ氏の主張による批判の最大の標的だが、トランプ氏の貿易戦争は、中国に影響力を拡大する好機も与える。
米通商交渉官を務め現在はシンガポールのシンクタンク、ISEASユソフ・イシャク研究所に所属するスティーブン・オルソン氏は「中国は、ルールに基づく国際貿易体制のリーダーと自らを位置づけ、米国を秩序ある貿易関係を破壊しようとする危険な『ならず者国家』として描こうとしている」と述べた。
トランプ米政権は他国にも対中圧力への協調を呼びかけているが、関税の脅威が高まる中で、第2次大戦以降米国と密接な同盟関係を築いてきた先進諸国は、中国への接近を強めている。
EU(欧州連合)は今後数カ月で高官を中国に派遣する予定で、結束して断固とした対応を取ると同時に、交渉の余地も残すという二重戦略を取っている。英国は、米国とEU、さらには中国との間の仲介役を目指しており、今年に入り3人の閣僚が中国を訪問している。
一方、中国の習近平国家主席は東南アジアとの関係強化を図る。同地域は対米輸出に依存している国が多く、トランプ氏による最も高率な関税の影響を受けている。
英国、ドイツ、日本などの主要国は既にトランプ政権との協議を行っている。例えば英国は、自動車関税の引き下げや医薬品への高率関税の適用除外を求めて交渉に臨んでいる。その見返りとして、米国産食料品の関税削減や米テック企業への課税軽減が協議対象となっている。
しかし、より小さな国々にとっては、IMF・世銀会合で得られるチャンスは特に重要だ。それ以外に交渉の場がないことも多いからだ。
HSBCホールディングスのアジア担当チーフエコノミスト、フレデリック・ノイマン氏(香港在勤)は、ワシントン会合期間中には、小規模国の関係者が米政府要人との接点を探る「ドアノック外交が活発化するだろう」とし、「小国の多くは、米国が何を望んでいるのかよく分からない。まずは接点を築くことが極めて重要だ」と説明した。
原題:World’s Economic Chiefs to Face Trump’s Trade War in Washington(抜粋)
--取材協力:Laura Noonan、Philip Aldrick、Kamil Kowalcze、Jorgelina Do Rosario、Zijia Song、Jorge Valero、横山恵利香.
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