米フレッシュ・プレス・ファームズはオリーブや種子類、ナッツ類を全て米国内の農場で栽培し、ジョージア州にある自社の製油所で圧搾、瓶詰めして全米の食料品店に出荷している。

同社は理論上、トランプ大統領の「米国第一」主義に基づく政策が支援すべき典型的な企業だ。このブランドのウェブサイトでは、「米国産が誇り」とうたわれている。

しかし、製品の包装に使用するガラス瓶は、中国を含む海外から調達。中国からの輸入には最大145%の関税が課されている。他の容器に使われるアルミニウムは米国内で成型されるが、原料はカナダから輸入されている。

フレデリック・ルブール最高経営責任者(CEO)はガラス瓶の代替供給元を探しているものの、切り替えには少なくとも半年はかかるという。その間、関税によって25万ドル(約3560万円)のコスト増が見込まれ、25人の雇用を生むはずだった製造プロジェクトは中断に追い込まれた。

同CEOはトランプ政権が米国の主要貿易相手国に対して発表した広範な関税政策に触れながら、「長期的には米国内の発展が進むかもしれないが、短期的には非常に苦しくなり、われわれのような企業は投資計画を諦めざるを得ない」とインタビューで語った。

世界の金融市場が、トランプ政権による関税交渉に注目する中で、米国内の大小さまざまな企業がすでにその影響を受けている。

フレッシュ・プレスのみならず、多くの企業が人員採用や事業拡大の計画を一時中断し、当面の対応策を模索している。

関税がサプライチェーン全体にどのように影響するかを分析し、原材料と完成品とで異なる税率をどう管理するかを検討している企業も多い。そして、そのコストを顧客に転嫁するかどうかの判断も迫られる。いずれにせよ、多大な労力を要する。

「黄金時代」かリセッションか

「本当に厄介だ」と語るのはニューヨークに本社を置くヒューマンスケールのボブ・キングCEOだ。同社はエルゴノミクス(人間工学)に基づいた椅子や机、照明器具を設計している。「今では、多くのオペレーション担当者が関税対応に追われている」と嘆く。

例えば、オフィスチェアに課される可能性のある関税を算出するには、かなり複雑な作業が必要になるという。ヒューマンスケールは米国と海外に生産拠点を持ち、製品の各パーツに使用されるアルミニウムや鉄鋼といった原材料ごとにその割合を細かく算出し、関税額を計算しなければならない。

現在のシステムはこのプロセスに対応しておらず、コンプライアンス(法令順守)を確実にするには非常に手間がかかる。製品の最終組み立て後も、例えばカナダに出荷する場合は追加の関税が課される可能性があり、関税が上積みされる。

ヒューマンスケールはすでに中国依存を減らすためにサプライチェーンの見直しを進めていたが、その一部は関税の網にかかる見通しだ。「サプライチェーンを一朝一夕に変えることなどできない。何年もかかることだ」とキングCEOは話した。

ホワイトハウスは関税による一時的な混乱について、やがて米国内の投資と製造業を活性化させ、「黄金時代」が到来すると主張している。

ベッセント財務長官は14日、「全体像を見なければならない。トランプ大統領が言っていたように『冷静でいろ』ということだ」とブルームバーグテレビジョンで語った。

しかし、短期的には、こうした負担がリセッション(景気後退)懸念を呼んでいる。

米国の製造業活動は3月に縮小に転じ、メーカーの価格負担も上昇。投資家のセンチメントを測る調査では、過去30年間で最も悲観的な数値が示された。ゴールドマン・サックスは経済成長の見通しを引き下げ、デービッド・ソロモンCEOはリセッションのリスクが高まっていると述べた。

フレッシュ・プレスは大幅なコスト増にもかかわらず、価格を引き上げることには慎重だ。

主に食料品店を通じて販売しているため、価格改定が店頭に反映されるまでに数カ月かかるという。ルブールCEOは、価格が反映されるころには貿易戦争がすでに落ち着いている可能性があることを懸念する。

「そうなれば市場で最も高価なブランドになってしまい、何も売れなくなるだろう」と語った。

原題:Trump’s Tariff Policies Are Hitting Businesses He Wants to Help(抜粋)

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