トランプ米大統領の貿易戦争が引き起こしたパニックは世界中の金融市場を混乱させ、米国の国際的な地位に疑念を投げかけたが、そうした混乱は始まった時と同様に急速に収束した。予期しない、あり得ないほどの安堵(あんど)感が広がっている。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)初期や2008年の信用危機以来見られなかったような10%超の変動率を記録したS&P500種株価指数は今週、不気味な静けさを取り戻した。

米株式市場の「恐怖指数」として知られるシカゴ・オプション取引所(CBOE)ボラティリティー指数(VIX)はパンデミック時の高水準から急降下。米国債は再び「無リスク」資産としての長年の役割を取り戻した。

しかし、ウォール街の債券取引デスクや企業経営者、ヘッジファンド、独立系調査会社などでは、この状況が長続きせずトランプ氏がSNSに1回投稿するだけで全てが急速に崩れかねないという不安は根深い。

トランプ氏は17日、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が利下げしないなら議長解任も辞さないと主張。連休を控えた金融市場を再び不安にさせた。

トランプ氏は最も厳しい関税措置を一時停止して貿易相手国と交渉する構えを示し、中国との対立のさらなるエスカレートを思いとどまったことで、市場を崖っぷちから引き戻し正常化を図った。

しかし、数十年にわたり定着してきた国際貿易ルールを単独で書き換えようとするトランプ氏の一貫性のない取り組みと、それに誘発された混乱に対し同氏が当初無関心だったことは、米経済の先行きや、あらゆる資産価格の動向への信頼感を弱めている。

「市場には過剰なほどの恐怖感が漂っている」とテムズ・キャピタル・マネジメントの創業者ジェイ・ゲンザー最高投資責任者(CIO)は述べ、「われわれは大規模なイベントを目にしたが、不安材料は依然として多い」と指摘した。

輸入関税を1世紀ぶりの高水準に引き上げるトランプ氏の方針は、米国にさらなるインフレショックをもたらし景気減速を招く公算が大きい。交渉に向け上乗せ関税の一部を一時停止し、中国に対しては高率関税を維持した同氏の決定は不確実性をさらに高めている。

消費者がトランプ関税の影響を懸念し、企業が様子見姿勢を強める中、企業収益の見通しは不透明だ。ユナイテッド・エアラインズ・ホールディングスは業績見通しで異例の2つのシナリオを提示。リセッション(景気後退)に陥っても手堅く利益を上げられる見通しを示し、投資家の不安感に対応した。

クロスマーク・グローバル・インベスターズのボブ・ドール最高経営責任者(CEO)は同じような懸念に直面している。

ドール氏は通常なら株式市場の動向について比較的狭い範囲で予測を立てられるが、現状では見通しの幅は「トラックが通れるほど広い」と指摘。16日にS&P500種株価指数が5350前後で推移する中、同氏は米国がリセッション回避するか否かで4000近辺まで急落するか、5800まで急反発する可能性があると予想した。

ウォール街のストラテジストらは、米国株の見通しを徐々に下方修正しており、シティグループの担当者らも他社に続き見通しに慎重な姿勢を強めた。

ニューバーガー・バーマンのシニアストラテジスト、ラヒール・シディキ氏は、「米株式市場を見てもリセッションが織り込まれていない」と指摘。「大統領が『リセッションなどどうでもいい、短期的な痛みを耐えれば長期的な利益になる』と述べるなら、どこまで踏み込むつもりなのかは分からない。大統領が前進し続ければ忍耐の限度を超えて破綻する恐れがある」と話した。

原題:Beneath Market’s Uneasy Calm, Dread Runs Deep Across Wall Street(抜粋)

--取材協力:Ye Xie、Matt Turner、Jeran Wittenstein.

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