(ブルームバーグ):米国の関税政策が世界景気と各国の金融・財政政策の先行きを不透明にする中、生命保険会社は2025年度の運用計画で難しい判断を迫られそうだ。金利ストラテジストらは、日本国債の投資に慎重な姿勢を示す可能性が高く、金利が急上昇した超長期ゾーンの買い支え役としては力不足とみている。
日本の生保は1月末時点で国債を中心に388兆円を運用する巨大投資家で、計画内容は世界の金融市場に影響を及ぼす可能性が高い。日本銀行の利上げ継続による金利の先高観から、24年度は待ちの状態が続いた。さらに足元は貿易戦争の激化懸念で債券相場のボラティリティーが上昇、流動性は低下しており、今週から始まる大手生保各社の運用説明会は、最新の投資戦略を確認する機会になる。
SMBC日興証券の奥村任シニア金利ストラテジストは、米関税政策や日銀の金融政策の先行き不透明感が強く、運用担当者から「投資スタンスを決め打ちするようなコメントは期待できない」と予想。相場反転の材料にはならないとみている。
生保の主要な投資対象である30年国債の利回りは4月に入り21年ぶりの高水準を更新すると共に、1日で10ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)以上動く日が続発。予想変動率を示す日本国債VIX指数も約半年ぶりの高水準に達した。
パインブリッジ・インベストメンツ債券運用部の松川忠部長は「これだけ値動きが激しいと売買する投資家はいなくなる」と言う。
国内最大の生保である日本生命保険の朝日智司社長は、利回りの上昇(価格は下落)で含み損が膨らんでいる保有国債について、より安定した運用利回りを確保するため、損失を計上してもさらに入れ替えを進める考えを示していた。
海外資産に対するスタンスにも市場関係者の注目が集まる。JPモルガン・チェースのストラテジスト、ニコラオス・パニジルツォグルー氏はリポートで、米経済の先行き不透明感を背景に日本の年金基金や生保など長期投資家がドルヘッジ比率を変更する可能性に言及。日本では17年以降低下し、24年は30%を割り込むなど歴史的低水準となったが、一転50%以上へ引き上げる可能性を指摘した。
財政懸念、利上げパス
金利の急上昇が顕著な超長期債に買いが入りにくくなっているのは、国内で財政悪化への懸念が広がっていることも一因だ。自民党は今国会で補正予算案を提出しない方針だと一部で報じられたが、パインブリッジの松川氏は米国との関税協議で防衛費上乗せを要求される可能性があり、財政拡張による金利プレミアム(上乗せ)を考えておく必要があると身構える。
訪米中の赤沢亮正経済再生相は16日にトランプ大統領と面会、ベッセント財務長官らとの関税交渉に臨み、米側から日本との協議を最優先に進める意向が示されたことを明らかにした。
米関税政策は日本経済の成長の妨げになる恐れがあり、日銀の利上げパスにも影響を及ぼそうとしている。市場の利上げ予想を反映するオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)を見ると、米関税政策の発表前は年内の利上げがほぼ確実視されていたが、足元は4割程度にとどまる。
日銀の植田和男総裁は17日の参院財政金融委員会で、米関税政策を巡る不確実性が急速に高まっており、日本経済への影響を見つつ、予断を持たずに政策判断を行うとの考えを示した。
アクサ・インベストメント・マネージャーズの木村龍太郎債券ストラテジストは、金利が生保の投資目線にかなう水準に上昇しており、消極的な買い姿勢は維持されるものの、相場の大きな支援材料にはならないと予想している。
一方、明治安田生命保険の北村乾一郎執行役員・運用企画部長は説明会前に取材に応じ、金利水準は上がっているが、取引を伴った上昇ではないと指摘。「今の水準が本当の価格なのか疑わしく、一喜一憂する必要はない」と話した。
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