米ハーバード大学がトランプ大統領に抵抗する姿勢を示したことは、マサチューセッツ州の政治家たちから喝采を浴びた。だが、その結果として連邦政府からの資金援助が削減されれば、同州の主要な経済エンジンが危機にさらされることになる。

トランプ政権から計90億ドル(約1兆2800億円)もの助成金と契約を打ち切る可能性をほのめかされたものの、ハーバード大学は14日に方針を転換しない考えを示した。同大への要求が、反ユダヤ主義との闘いという明文化された使命の範囲を超え、大学の独立性を脅かすものと判断したからだ。

報復はすぐにやってきた。数時間後、政府の作業部会はハーバード大への複数年にわたる助成金22億ドルを凍結する計画を発表した。トランプ氏は16日朝、自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に、ハーバードは「道を誤った」と投稿し、助成金凍結を改めて支持した。

しかしこの地域の民主党政治家にはハーバード大出身者も多く、同大には素早く支援の声が挙がった。

ハーバード大バスケットボールチームのキャプテンを務めたマサチューセッツ州のヒーリー知事や、同大ロースクールで教壇に立っていたウォーレン上院議員が、大学側の反撃の決断を称賛した。同じく卒業生のモールトン下院議員は、米国建国に不可欠な言論と信仰の自由を守るとりでとして、ボストンが役割を果たしてきたと強調した。

モールトン氏は「現代の暴君に立ち向かう勇気を見いだしたハーバード大のリーダーたちに敬意を表する」とX(旧ツイッター)に投稿した。

波及効果

ハーバード大はマサチューセッツ州の他の高等教育機関や著名な病院と同様、州経済の生命線だ。ハーバード大の挑戦的な姿勢は、その存在によって支えられている広範な「生態系」を脅かす可能性がある。

同校に流れる連邦政府からの資金は、マサチューセッツ総合病院やボストン小児病院などの主要な医療システム、研究者や科学者、医師のネットワークとつながっている。特に医療や生命科学関連の企業はこうしたつながりや、ハーバード大のブランド力によって培われた人材に魅力を感じている。

 

米教育省の担当者は関連病院が助成金凍結の影響を受けていないとしている。同省はハーバードへの助成金などを精査する作業部会の一員。

病院に影響が及ばない状態がいつまで続くかは、ハーバードが法廷闘争に踏み切った場合に不透明になる。ヒトの臓器チップや、結核研究のための6000万ドルの契約など、関連研究者にはプロジェクトの停止命令が出始めていると学生紙ハーバード・クリムゾンは報じた。

タフツ大学国家政策分析センターのエグゼクティブディレクター、エヴァン・ホロウィッツ氏は、ハーバード大の対応が「道徳的にも法的にも正しい判断である可能性が高いが、間違いなく経済的なリスクを高めるだろう」と述べた。

マサチューセッツ州の独立大学協会によると、同州の大学は32万人以上の雇用を創出し、地域経済に710億ドルの経済効果をもたらしている。14日のハーバード大発表を受け、マサチューセッツ工科大学(MIT)のサリー・コーンブラス学長は声明で、国立衛生研究所やエネルギー省からの資金削減や、予期せぬ学生ビザ取り消しに対し、同校は独自に取り組んでいると強調した。

530億ドルの基金を保有し、米国で最も裕福な大学であるハーバード大は、他の大学よりも法的・政治的な争いを乗り切るだけの財政力がある。だが、政府からの支援なしに研究室を維持できない研究者にとっては、資金凍結は深刻な影響をもたらす。

ハーバード大学とトランプ政権の対立は、マサチューセッツ州の経済に幅広く影響することになる

ハーバード大学はすでに、先行きが不透明な状況下で一時的に採用を凍結している。同校の2023年報告書によると、教授陣だけでなく、研究助手や技術者、事務職員など、マサチューセッツ州に住む1万8700人以上が働いており、ハーバード大は同州で4番目に大きな雇用主だ。 ホロウィッツ氏は支出の削減が「地域社会に波及するだろう」と述べた。

トランプ政権が助成金削減を実行に移した場合、マサチューセッツ州に深刻な影響が及ぶとヒーリー知事は警告してきた。同氏は2月、ボストン商工会議所主催のイベントで、マサチューセッツ州の教育および医療業界が「今まさに攻撃を受けている」として、保護を訴えた。研究所用の機器を製造する企業や、融資を行う銀行、連携する弁護士やその他専門サービス企業、さらには不動産会社も、すべて削減の影響を受けると述べ、経済界に立ち上がるよう呼びかけた。

原題:Harvard Fight With Trump Imperils Lifeblood of Massachusetts (1)(抜粋)

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