Z世代の価値観に寄り添うコミュニケーションが必須

このような状況をふまえて、企業はZ世代の早期退職をくい止めるためにどのような対策をしているのだろうか。

厚生労働省の調査によると、「入社前後の認識のズレ」の防止や「労働時間・休日・休暇の条件」の改善を図る観点から、第2位に「採用前の詳細な説明・情報提供」(58.4%)、第3位に「労働時間の短縮・有給休暇の積極的な取得奨励」(52.9%)が挙げられている。これらは、若手社員の早期退職の原因に直接対応した取組みといえる。

一方、注目すべきは「職場での意思疎通の向上」(59.7%)がわずかながら第1位になっている点である。

コロナ禍を経て、職場でのコミュニケーションは企業によって対面で行うとは限らなくなっていることに加え、前述のようにZ世代の「キャリア志向」が他社に向けられることを防ぐためにも一層重要になっている。

Z世代の新入社員は規律性を敬遠する傾向がある一方で、企業側は逆に規律性を新入社員に求めようとする傾向が指摘されている。

たしかに、規律性は組織で働くうえで必要な要素であるが、新入社員に対して丁寧なコミュニケーションを取らずに規律性を強調し過ぎると、Z世代の価値観に合わなくなり、結果的にキャリア志向を他社に向けることで早期退職につながる可能性もある。

初任給を引き上げて新入社員を採用したにもかかわらず、当初から将来的に退職を想定されていることは多くの企業にとって避けたい事態だろう。

そのためにも、Z世代の新入社員に対しては、入社時から丁寧かつ適切なコミュニケーションを図ることが必要だ。

Z世代ならではのキャリア志向や特性と企業側の意向がミスマッチを起こさない工夫や、Z世代の新入社員が自社で活躍するための「価値とスキル」を高められる成長実感を継続的に担保できるような人材配置・育成が求められる。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 主任研究員 西野偉彦)