(ブルームバーグ):自民党所属議員への商品券配布問題で石破茂首相の政権運営は厳しさを増している。週末に報道各社が行った世論調査で内閣支持率は急落している。政局の不安定化は昨年来の利上げで正常化を進めてきた日本銀行の金融政策にも影響を与えかねないとの見方も出ている。
石破首相は17日の参院予算委員会で、商品券配布が世の中の感覚と乖離(かいり)をした部分が大きくあったと痛切に思っているとして、「大変申し訳ございません」と陳謝した。政治資金規正法などには抵触しないとの見解も改めて示した。

国会では最大の焦点である2025年度予算案が日本維新の会の協力で一部修正し、いったん衆院を通過したものの、高額療養費制度を巡る方針変更で異例の再修正を余儀なくされている。夏の参院選を控え、内閣支持率の低下は自民党内の一部から出ていた退陣論を勢いづかせ、今後の対応次第では首相が窮地に立たされる可能性がある。
朝日新聞が15、16両日実施した世論調査によると、内閣支持率は26%と前回調査から14ポイントも急落。商品券配布について「大いに問題だ」「ある程度問題だ」が計75%となった。内閣支持率は毎日新聞の調査でも23%、読売新聞では31%といずれも前回より減少。3社とも政権発足以来、最低となったが、朝日調査で配布問題で首相をやめるべきかとの問いには「その必要はない」が60%だった。
自民党内から首相批判
商品券問題に自民党内からは首相を批判する声が上がっている。山田宏参院議員はX(旧ツイッター)で「いま国会で政治資金に関する法案審議が行われている真っ最中なのに、あまりにも無神経で無責任」と指摘。佐藤正久幹事長代理は「迷惑をかけてすまないとの発言もメールもない」と投稿した。
野党側は立憲民主党の野田佳彦代表は商品券配布は「政治活動に関する寄付」を禁じた政治資金規正法に抵触する可能性があると指摘しており、国会審議などを通じて首相を追及していく考えだ。
国民民主党の玉木雄一郎代表は16日の報道番組で、議員が「行為規範」や法令の規定に著しく違反し、政治的道義的に責任があるかを審査する政治倫理審査会に出るのが適切との見解を示した。「法律上グレー」であり、政倫審の場で弁明すべきだと訴えた。
自民党の武見敬三参議院議員会長は同日、「金額含めて、それが国民感覚からすればかなりかけ離れたものであったことは否めない。多くの国民からの疑念が生じている」と指摘。法律上は政治活動ではないとしながらも、首相は「説明責任を果たすことが必要」だと述べた。
林芳正官房長官は17日午前の記者会見で、世論調査結果についてはコメントを控えた。その上で、石破首相自身が国民の理解を得るため、さらなる努力が必要との見解を示していると強調した。
市場は石破退陣を意識
商品券問題と内閣支持率の急落を受け、市場では石破首相退陣による日銀の金融政策正常化が遅れる可能性が早くも意識されている。
みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストはリポートで、石破首相が退陣し、昨年の自民党総裁選で次点だった高市早苗前経済安全保障担当相が後任になった場合、ドル高・円安が進み、長期金利が低下する可能性があるとみる。
利上げに明確な反対姿勢を示していた高市氏が「ポスト石破」に就任すれば、日銀の利上げ折り込み回数は減少し、長期金利は低下すると予想。為替相場はドル高・円安が再度進む可能性が高くなるとしている。
前週末14日の債券市場は上昇している。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介シニア債券ストラテジストは、「高市トレード」の復活を指摘する声が聞かれたとし、日銀の利上げの制約になるとの思惑が債券市場の支えになるとみている。
一方、野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストは、海外勢を中心に高市氏なら円安材料視されるとみる。林芳正官房長官や加藤勝信財務相が後継首相との見方が強まれば目先の政策変更期待は高まらないと指摘した。
(石破首相、林官房長官の17日の発言を追加し、更新しました)
--取材協力:日向貴彦、グラス美亜、日高正裕、山中英典、船曳三郎.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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