米大リーグ(MLB)の開幕戦が18日に東京ドームで行われる。豪快なプレーの裏でデータを重視するMLBの流儀を取り入れるのが、昨季26年ぶりに日本一となった横浜DeNAベイスターズだ。米国の映画「マネーボール」を彷彿とさせる精緻なデータ分析や、元バンカーら異業種からの転職組の活躍で、今年も連覇を目指す。

投手が投げたボールの回転数や軌道、外野手が飛んできたボールを追う際の体の動かし方まで、ベイスターズではさまざまなデータを試合や練習中に集めて分析する。データ活用を担う吉川健一ゲーム戦略部長(37)は投手を例に挙げ、投球データから1軍に所属した場合の活躍度合いを予測する指標を作り、チーム編成や育成部門にも共有していると説明する。

選手をスカウトする部門からの助言を基に、データ分析チームの知見を組み合わせ、隠れた有望選手を獲得したケースもあるという。2023年のシーズンオフにジャイアンツから戦力外通告を受けてベイスターズに移籍し、昨年のクライマックスシリーズで活躍した堀岡隼人投手もその一人だ。監督、コーチ、選手の全員が「データに対する理解をしてくれている」と吉川氏は話す。

日本プロ野球選手会の調査によると、ベイスターズの各球団の1軍と2軍の選手会所属選手の年俸合計は年々増加しているものの、読売ジャイアンツや福岡ソフトバンクホークスに比べると選手の獲得にかけられる予算規模は少ない。データを使って居並ぶ強者を圧倒した姿は、ブラッド・ピットが主演を務めたマネーボールで描かれたオークランド・アスレチックス(現アスレチックス)の番狂わせを想起させる。

とはいえデータ一本足だけでは限界があることも分かってきた。スカウトチームを統括する長谷川竜也編成部長(36)は、5年後も活躍できる選手を見極めるには、人間性や性格などアナログな要素も欠かせないとして、試合以外での所作を観察したり、中学校の担任教師に話を聞きに行ったりしたこともあるという。

クライマックスシリーズでジャイアンツを下したものの、ペナントレースでは8ゲーム差をつけられていたのも事実。今シーズン、ベイスターズの真価が試されそうだ。28日には、本拠地の横浜スタジアムで中日ドラゴンズと開幕戦を行う。

 

転職組の活躍

楽天とソフトバンクの参入が決まった04年の球界再編以降、情報技術(IT)やマーケティング、ファイナンスなどの専門スキルを持つ人材が球団経営に関わるケースが増えた。12年に球団運営に参入したDeNAも例外ではない。IT人材に加え、金融業界やコンサル出身など異業種からの転職組も活躍する。

吉川氏はメガバンク出身で、営業やリスク管理の部署を通して顧客とのコミュニケーションスキルや、分析したものを実務に生かす大切さを学び、「どのように分析していけばいいアウトプットが出るのか」という視点を叩き込んだ。

DeNAでスカウトチームを統括する長谷川氏も金融業界で企業の合併・買収(M&A)関連業務に従事していた経歴を持つ。スポーツビジネスに携わりたいと一念発起し、21年にDeNAに入社した。原点は高校時代に読んだマネーボールの原作本にある。スポーツ選手などではない「普通の人でも仕事としてスポーツに関われる世界がある」ことを知った。

長谷川氏は野球経験はないものの、スカウト陣からのフィードバックと金融業界で学んできたマネジメント手法を組み合わせて仕事に臨む。「定量的なものと定性的なものを融合させていかにいい答えを出すか」を追求することがDeNAの一番の強みであり、自身の使命だと話す。

報酬アップが課題

スポーツ業界への転職は増加傾向にあるという。スポーツ業界への人材紹介サービスを手掛けるパシフィックリーグマーケティング(東京都港区)の森亜紀子広報部長によると、23年のサービス登録者は21年比で約2.4倍になった。

尚美学園大学の田中充准教授(現代スポーツ論)は、「国内スポーツ市場が拡大する中、スポーツ観戦などの趣味にとどまっていたエリートビジネス層が自らのスキルを持って飛び込める世界になってきている」と説明。一方で、対価の引き上げが今後の課題になると指摘した。

金融業界出身で、現在は大谷翔平選手や佐々木朗希選手が所属するロサンゼルス・ドジャースの編成トップを務めるアンドリュー・フリードマン氏は億単位の報酬を得ているという。「優れた人材が活躍し、市場規模そのものが拡大していくことで、エリート層のさらなる流入を呼び込める好循環を生み出せるのではないか」と田中氏は話した。

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