日本ではここ数カ月、2つの異なる出来事が全く違うペースで展開されてきた。

まずは、所得税が生じる「年収の壁」だ。この種の政策論議はどの国でも退屈なものになりがちだが、日本では特にそうだ。少数与党を率いる石破茂首相は、非課税枠の引き上げを看板政策とする国民民主党の支持を必要とし、行ったり来たりの議論に耐えてきた。

衆議院で来年度予算が可決され、石破政権はようやくこの苦境から抜け出せることになった。与野党間の歩み寄りを難しくしていたのは、税収減が7兆ー8兆円に上るのではないかという懸念だった。

そうした中でも訪日観光客は増え続けた。1月には過去最高の370万人を記録。日本国民には世界的に見ても高い税負担が課せられているが、外国人観光客にとっては日本は非常に安い国だ。このギャップは何だろう。海外からやって来る観光客のあまりの多さに住民の不満も高まっている。

私は以前から、インバウンド需要をより有効に活用すべきだと主張してきた。訪日客にもっと多くの税金をどれだけ支払ってもらうようにすれば、こうした財源不足を補うことができるのかという考えも生じる。

無理な話なのは分かっている。政府は2020年代末までに訪日客を年6000万人に増やすという野心的な目標を掲げているが、それでも1人当たり12万円を超える課税を行わなければならないことになる。

しかし、それでもなお、私の思考実験では、もっと多くの驚くほどの税収を捻出することができた。

入国時に課税

まず、日本は訪日客に直接課税する必要がある。19年に始まった「国際観光旅客税」は、日本居住者を含め誰であれ出国時に1000円の税金を支払わなければならないというものだ。報道によると、これが最大5倍に引き上げられる可能性もあるという。

日本政府はさらに踏み込むこともできるはずだ。特に訪日客が到着時に支払う明示的な税金を検討すべきだ。

ニュージーランド(NZ)は19年に「国際観光客保全・観光税」を導入した。税額は最近、100NZドル(約8400円)に引き上げられた。当初35NZドルだった。この税金の使途は年次報告書で国民に伝えられる。

 

航空会社の燃油サーチャージと同様、訪日客はこうした避けられない課金に甘んじて応じるだろう。ネットフリックスやディズニープラスの定額サービスのようなものだ。かつてはお得感があった。だが、ユーザーが夢中になるにつれ、価格を徐々に引き上げる時が来たのだ。

私は国際観光旅客税を段階的に30年までに9000円に引き上げることを提案する。そうなれば、5400億円の追加税収が見込める。

宿泊税

訪日客の宿泊支出は19年からほぼ倍増しているが、需要には影響していない。これは、まだ需給バランスに余裕があるか、値上げが比較的容易な外資のホテルチェーンなどが訪日客を取り込んでいることを示唆している。

日本各地での宿泊税導入は当然の成り行きだ。東京では02年に初めてこうした制度が採用されたが、それでも1泊当たり最大200円だ。最近のデータによると、東京では客室の半分以上が訪日客によって占められており、増税の潮時だ。

スキーリゾートの聖地ニセコでさえ、宿泊税率はわずか2%だ。一方、北海道全域では1泊当たり500円を上限とする税を26年4月にスタートさせる予定だ。

それでも外国と比べれば、たいしたことはない。ハワイでは18%近い税率が課せられている。バルセロナの宿泊税は倍の15ユーロ(約2400円)に引き上げられた。ローマやパリでは10ユーロ以上の税が課せられている。

 

住所を証明できる国内居住者は宿泊税を免税されるべきだ。24年のデータを基にし、年6000万人の訪日客で30年のホテル支出が4兆8000億円に上ると推計すると、平均税率10%で4800億円の税収となる。

免税制度見直し

訪日客は現在、同一店舗における1日の購入額が5000円以上で、外国のパスポート(旅券)を提示すれば10%の消費税が免除されている。

その分の消費税を政府に納めなくて済む小売業は歓迎しているが、住民側の評判は良くない。導入されてから35年以上たつ消費税は今でも非常に不人気で、野党は常に消費税の税率引き下げを訴えている。

国内で使えないはずの免税品の転売による不正行為のニュースが報じられていることもあり、居住者はなぜ訪日客が消費税を免除されるのか疑問に思っている。26年には仕組みが変わり、訪日客の消費税払い戻しは、出国時に空港で受けることになる。

ただ、こうした免税措置を完全に廃止するのはリスクが高いようにも思われる。英国は21年に付加価値税(VAT)還付を取りやめたが、今後復活させる可能性もある。

しかし、日本は少なくとも5000円以上の買い物という基準は見直すべきだ。オーストラリアの外国人観光客向けの還付スキームは、300豪ドル(約2万8000円)のショッピングが条件となっている。

消費税免税対象の支出が1兆2000億円との試算もあり、税率10%を適用すると、1200億円の税収が見込める。

不動産購入

理論上は、これで計1兆1400億円の税収が増えるが、それでもまだ穴埋めするには十分ではない。もっと創造性が必要だ。例えば世界遺産への入場料を訪日客に対し高めに設定するなどの施策だ。

京都のような都市は、民間セクターによる混雑緩和策を検討すべきだ。大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)では有料の「エクスプレス」パスや需要に応じて料金が変動するダイナミックプライシングなどの金銭的インセンティブを活用して混雑緩和を図っている。

トランプ米大統領は500万ドルを支払う投資家に対し、米国での居住権を付与し、市民権取得への道を開くプログラム「ゴールドカード」を提供する構想を示している。日本でそうした査証(ビザ)に500万ドルを課すことはできないかもしれないが、長期滞在の外国人が負担するコストは安過ぎる。

多くの外国人、特に富裕層の中国人にとって、日本は非常に魅力的な場所になりつつある。これは潜在的な収益源だ。日本での永住許可申請にかかる費用は8000円。豪州や米国ではこの20倍ほどの支払いが必要だ。そして、日本は外国人の帰化申請に手数料を課していない。

関連して、今後さらに大きな議論となる公算が大きいのは、日本がアジアで不動産購入に関する規制が最も緩い国の一つであるという事実だ。シンガポールのように外国人に課税し買いにくくすることもなく、外国人の土地購入に居住要件さえ設けていない。

これが、人気の高い東京都心の地価の一部が法外なほど高額になっている一因であり、賃金の伸び悩みと相まって国民が割を食っているという不満につながっている。

今後は観光のみならず、日本のあらゆる面で外国人が増えることが現実になるだろう。そのため、政策当局は日本が外国人にとって何もかも高い国と考えられ、外国人観光客を呼び込むのに幾つものインセンティブが必要だった時代に抱いてた古い考え方を捨て去る必要がある。

最善を尽くしても、観光収入だけでは日本の歳入不足全てを解消することはできない。しかし、これほど多くのものを提供している国であれば、もう少し高い料金を請求しても妥当だろう。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Tokyo Has a Revenue Hole. Plug It With Tourists: Gearoid Reidy

コラムについてのコラムニストへの問い合わせ先:東京 リーディー・ガロウド greidy1@bloomberg.netコラムについてのエディターへの問い合わせ先:Ruth Pollard rpollard2@bloomberg.net

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