(ブルームバーグ):基本給に相当する所定内給与の伸び率が1月、パートタイムを除く一般労働者で過去最高を更新した。賃金と物価の好循環が引き続き強まっていくとする日本銀行の見通しに沿う内容で、金融政策正常化に向けて好材料との声が出ている。
厚生労働省が10日発表した1月の毎月勤労統計調査(速報)によると、所定内給与のうち一般労働者(パートタイム以外)は前年同月比3.1%増と前月から加速し、比較可能な1994年1月以降で最高となった。名目賃金に相当する1人当たりの現金給与総額は2.8%増加(市場予想3.0%増)。物価変動を反映させた実質賃金は1.8%減少(同1.6%減)と、3カ月ぶりのマイナスとなった。
エコノミストが賃金の基調を把握する上で注目するサンプル替えの影響を受けない共通事業所ベースでは、名目賃金は2.0%増だった。所定内給与は2.7%増。うち一般労働者は3.0%増と、同ベースでの公表が開始された2016年以降で最高だった昨年7月の水準と同じだった。
日銀は政策判断の材料として賃金の動向を注視。6日に連合が発表した25年春闘の賃上げ要求は32年ぶりに6%を超えるなど、賃金上昇のモメンタム(勢い)が持続していることが示された。足元の良好な経済指標や日銀政策委員からの利上げに前向きな発言などを受けた市場の早期利上げ観測がさらに強まる可能性がある。
第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは、24年春闘の33年ぶり高水準の賃上げが「半年程度のタイムラグを伴ってじわじわ効いてきている」と評価。所定内給与が名目で3%台に上がったところは「日銀はポジティブに捉えるのではないか。利上げを急いでほしい債券市場関係者もポジティブに捉えるだろう」との見方を示した。メインシナリオとして次回利上げは7月前後とみている。

統計発表後の円相場はやや売られ、一時1ドル=147円60銭台を付ける場面もあったが、足元は147円30銭前後で推移している。発表前は147円50銭付近だった。
利上げを決定した1月の金融政策決定会合後にブルームバーグが実施したエコノミスト調査では、追加利上げ時期について最多の56%が7月会合を挙げた。足元のスワップ市場では6月までの利上げを5割程度織り込んでいる。
日銀は、経済・物価が見通し通り推移すれば緩和度合いの調整を継続する方針を維持している。内田真一副総裁は5日、物価の基調を考える上で「一番重要なのは賃金」と指摘。今春闘でのさらなる賃上げに期待感を示していた。
連合によれば、今春闘の賃上げ要求(3日時点)は平均6.09%。組合員300人未満の中小は平均6.57%で30年ぶりの高水準となり、賃金の上昇を通じて持続的に生活が向上する「新たなステージの定着」を目指す連合にとって好調な出足となった。第1回回答集計の結果の発表は14日に公表する。
乏しい実感
一方、1月の実質賃金は昨年3月以来の大幅なマイナスとなった。生鮮食品などの高騰により物価上昇率が加速した一方、冬季賞与など特別給与の影響がはく落したことで名目賃金の伸びが鈍化したことが影響した。実質賃金の算出に用いる消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は1月に前年比4.7%上昇と、23年1月以来の高い伸びだった。
名目賃金の前年比が37カ月連続プラスだったのに対し、実質賃金はプラス圏で定着するまでには至っていない。物価高の影響で所得改善を実感しにくい状況が続いている。
石破茂首相は9日開催された自民党大会で、日本の経済成長のため「物価上昇を上回る賃金上昇を実現し、良い日本をつくっていく」と表明した。同大会に来賓として出席した連合の芳野友子会長は、物価高の影響で歴史的な賃上げを実現しても実質賃金は「回復途上」だと指摘。社会全体で賃上げを実現するには、中小・小規模事業者での取り組みが鍵となる」と語った。
みずほリサーチ&テクノロジーズの服部直樹シニア日本経済エコノミストは、 政治的に「実質賃金の改善を今年いかに達成していくかということが重要な課題だ」と指摘。水準ではコロナ禍前の19年と比較するとかなり悪化しており、ここから改善していけるかが「個人の生活実感に直結し、ひいては政治への信任、支持にもつながるため、非常に重要だ」との見方を示した。
(エコノミストコメントとチャートを追加して更新しました)
--取材協力:横山恵利香.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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