(ブルームバーグ):米経済は病んでいるという認識のトランプ米大統領は、経済の立て直しという公約を掲げて選挙戦を勝ち抜いた。2期目のトランプ政権が始まってから1カ月半が過ぎ、その治療は痛みを伴い得るという兆候が表れ始めている。
トランプ氏は「黄金時代」が到来するというビジョンを米国民に語り続けている。しかし、関税計画とその撤回が相次ぎ、世界的な貿易戦争と株式相場の急落を引き起こした1週間を経て、トーンはやや変化した。
トランプ氏は連邦議会で4日夜行った施政方針演説で、「関税は米国を再び豊かにし、再び偉大にするためのものだ。そして、それは実現しつつあり、すぐに実現するだろう」と述べた上で、「多少の混乱はあるだろうが、われわれはそれでOKだ。大したことではない」と強調した。
ベッセント財務長官は7日、「市場も経済も中毒になっていた。われわれは政府支出に病みつきになっていた」と指摘。「この先はデトックス(解毒)の期間になる」と話した。
トランプ氏が自身の政策を推し進める中、少し前まではそれほど厄介には見えなかった幾つかの厳しい現実が立ちはだかっている。
特に同氏は当初発表していた関税の一部を撤回しながらも、新たな関税を課すとの方針を変えていないため、インフレの抑制は容易ではないとみられる。消費者や投資家の不安が募り、経済は減速しつつあるように見える。

トランプ氏はかつて自身のパフォーマンスを株式相場で測っていたが、今では考えを一変させている。
カナダとメキシコとの貿易戦争を辞さないとするトランプ氏が議会演説する数時間前、S&P500種株価指数は昨年の大統領選以後の安値を記録。週間ベースでも下落した。
米国債も週間で値下がりしたが、ガソリン価格下落への期待を支える原油安は明るい材料だった。
「市場を見てすらいない」
トランプ氏のメッセージは、製造業を国内に戻すためには短期的な痛みを伴うとしても、それだけの価値があるというものだ。
同氏は6日、ホワイトハウスで、「私は市場を見てすらいない。なぜなら長期的には、ここで起こっていることによって米国は非常に強くなるからだ」と語った。
保守系のシンクタンク、ヘリテージ財団のEJアントニ研究員は、「ウォール街の人々には適応期間が必要だろう。関税を導入したからといって、天が落ちてくるわけではない」と話した。

ベッセント氏は、政権の焦点はウォールストリートではなくメインストリート、つまり金融界ではなく実体経済や中小企業、消費者だとの考えを示した。
7日に発表された2月の雇用統計は、 雇用の伸びが堅調に推移した一方、失業率はわずかに悪化と、相反する内容となった。
連邦政府職員の削減を進める権限をイーロン・マスク氏に与えたトランプ氏は製造業の雇用が増えていると言及。「労働市場は素晴らしいものになるだろう。政府の仕事ではなく、高い給料を支払う製造業の仕事を提供するだろう」と同氏は述べた。
米国民の目
民主党のバイデン前政権で大統領経済諮問委員会(CEA)に所属していたヘザー・ブシェイ氏によれば、トランプ氏の熱狂的な貿易キャンペーンは、富裕層に不釣り合いなほど有利になる他の政策案から米国民の目をそらしている可能性がある。
ブシェイ氏は、共和党が減税を復活させ、政府機関の人員削減と歳出削減に取り組んでいことに触れ、「これはまさに混乱そのものであり、この混乱は大規模な収奪から米国民の目をそらすことを目的としているのではないかと私は日々危惧している」と述べた。
その上で、トランプ政権は「メディケイド(低所得者向け医療保険制度)やその他の非常に重要なプログラムへの支援を削減するという明確な計画を持っている」と説明した。
トランプ氏は減税を補う新たな財源を模索しており、関税はその計画の一部だ。「大統領は所得税の税収を関税収入で代替できれば、誰もがより豊かになれると信じている」とトランプ政権のハセットNEC委員長は語った。

原題:Trump Team Is Pivoting to No Pain, No Gain as Economic Message(抜粋)
--取材協力:Jonathan Ferro、Jenny Leonard.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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