(ブルームバーグ):米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、米経済の先行きに不確実性の兆候が増えていることを認め、金融当局として政策調整を急ぐ必要はないとの見解を示した。
議長は7日、シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスがニューヨークで主催したイベントで講演。「不確実性の高まりにもかかわらず、米経済は良好な状態が続いている」と指摘した。「われわれは急ぐ必要はなく、状況がより明確になるのを待てる良い状況にある」と述べた。
パウエル氏は貿易や移民などトランプ大統領の経済計画がもたらし得る影響について、未知の部分が残っていると指摘。
「そうした分野の一部、特に貿易政策では最近動きが見られるものの、政策変更とそれがもたらし得る影響を巡る不確実性は引き続き強い」と述べた。

パウエル氏はまた、最近の指標は消費が減速する可能性を示唆しているほか、家計と企業を対象とした調査では景気の先行きに対する不透明感が強まっていることが示されたと指摘した。
パウエル議長は、「そうした情勢が今後の支出や投資にどのような影響を及ぼすかはまだ分からない」と述べた。
パウエル氏の講演を受け、米国債利回りは全年限で上昇。この日の最高を付けた。講演前は、2月の米雇用統計で年内複数回の利下げ予想が裏付けられたとの見方から、利回りは大きく低下していた。円は午前中に対ドルで上昇していたが、パウエル氏の講演後に一時下落に転じた。また軟調に推移していた米主要株価指数は、講演後に上げに転じた。

起伏の多い道
インフレ率の低下に関しては、進展の継続を見込んでいるとしつつ、その道筋は起伏の多いものになるとの見通しを示した。
パウエル氏は「インフレ率を持続的に当局目標に戻す道筋はこれまで、起伏の多いものになっており、それは今後も続くと予想される」と説明。その上で「住宅サービスや、非住宅サービスにおける市場ベースの要素といった依然高止まりしている分野で進展が続いている」と述べた。
消費者の短期的なインフレ期待が高まっていることを示唆する最近のデータに触れつつ、中長期のインフレ期待に関する指標の大半は「引き続き安定」しており、金融当局の2%インフレ目標と「整合している」と指摘した。
米連邦公開市場委員会(FOMC)が今月18、19日に開催する定例会合では、政策金利が据え置かれると広く見込まれている。
トランプ米大統領の経済政策案を巡る不確実性も背景に、金融当局者らは金利据え置きを支持する姿勢を示している。トランプ氏は1月の大統領就任以降、中国に対して新たな関税を課したが、メキシコとカナダへの新たな関税ではその具体的な計画が二転三転した。このほかにも多くの貿易相手国に相互関税を課す方針を示しているほか、不法移民の取り締まりと送還の強化にも動いている。
そうした政策は複合的にインフレに上向きの圧力をかける一方、経済成長全般には重しとなることが一部予想で示されている。そうした状況により、金融当局はインフレが高止まりする中で成長が減速するというシナリオに直面する可能性が出てきた。
パウエル議長は「経済、そして金融政策の道筋にとって重要なのは、そうした政策変更が総合的に及ぼす影響だ」とし、「われわれは入手する情報を分析しつつ、見通しが変化する中でシグナルとノイズとを切り離すことに集中している」と説明した。
「経済は順調」
講演後の質疑応答では、金融当局者らは辛抱強くなることでリスクを高めてはいないと強調した。
「慎重になることのコストは極めて低い」とし、「経済は順調だ。われわれが何かをする必要はない。待つことができるし、そうすべきだ」と語った。
朝方発表された2月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比15万1000人増加。失業率は4.1%とわずかに上昇した。
パウエル議長は「労働市場は堅調でおおむねバランスが取れていることが、多くの指標で示されている」とし、インフレ圧力の大きな要因にはなっていないとの見解を示した。
原題:Fed’s Powell Says Still No Need to Hurry to Consider Rate Moves(抜粋)
(議長の発言内容と市場の反応を追加し、更新します)
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