(ブルームバーグ):米雇用の伸びが2月に堅調に推移した一方、失業率はわずかに上昇した。強弱まちまちの内容は政策の急速な変化に揺れる雇用市場の状況を映している。

今回の統計は労働市場の軟化を示す新たな証左となった。恒久的に職を失った人が増え、連邦政府の雇用が減少。フルタイムでの雇用を望みながらもパートタイムの職に就いている労働者の数が急増した。複数の職に就いている労働者は890万人近くに膨らみ、過去最高を記録した。
トランプ大統領の政策でより広範な経済への懸念が強まり、労働市場が弱まる背景になっている。ここ数カ月、インフレは高止まりしており、消費者は支出を控え始めている。この傾向が続けば、企業は採用計画を再考せざるを得なくなる可能性がある。
コメリカ・バンクのチーフエコノミスト、ビル・アダムズ氏は「目先の政策の方向性が不透明なため、経済の方向性も不透明だ」とリポートに記述。「政府が大幅な関税引き上げと歳出削減を継続するなら、今後数カ月は雇用創出の足かせとなり、失業率をさらに押し上げる可能性が高い」と指摘した。
米金融当局者は利下げを再開する前に、来週発表される消費者物価指数(CPI)など、インフレ指標が持続的に落ち着くかどうかを見極めたい意向を示している。トランプ政権の政策に対する高い不確実性と相まって、連邦公開市場委員会(FOMC)は今月の会合で政策金利を据え置くことが広く予想されている。
金融市場では米国債利回りが低下し、ドルは下落。円は一時、対ドル146円95銭に上昇した。
雇用増加は医療や運輸、金融活動が主導した。ここ数年、雇用増の主因となってきた政府関連の雇用は、約1年ぶりの低いペースで増加した。そのうち連邦政府の雇用は2022年6月以来の大幅減少となった。
事業所調査は12日を含む週に実施されるが、2月において当該週はトランプ政権による政府職員の解雇の大半が実施される前だった。その結果、3月の統計は「はるかに悪い」内容になるだろうと、ウルフ・リサーチのチーフエコノミスト、 ステファニー・ロス氏はブルームバーグテレビジョンで語った。

トランプ大統領の2期目だけが反映された雇用統計は、これが最初となった。再就職あっせん会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスが6日発表した人員削減数によると、政府職員の削減を目指す政権の政策は既に、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)初期以来の大規模な人員削減発表につながっている。トランプ政権の矢継ぎ早の取り組みを受け、年末までに50万人超の雇用が失われる可能性があると一部のエコノミストはみている。
トランプ氏は製造業の雇用を米国に呼び戻そうと関税を導入しており、すでにアップルやHPなど一部企業は国内投資の計画を発表している。一方、アルミニウムメーカーのアルコアは、関税により10万人の雇用が失われる可能性があると警告している。
さらに移民の制限や不法移民の送還などの取り組みは、ここ数年の雇用を拡大してきた主な要因を抑制することになる。
ハセット国家経済会議(NEC)委員長はブルームバーグテレビジョンで「政府の雇用と歳出を削減し、製造業の雇用を増やす」と語った。
ブルームバーグ・エコノミクスのアナ・ウォン、スチュアート・ポール、イライザ・ウィンガー、エステル・オウ4氏は「連邦政府の縮小はすでに雇用統計に表れ始めているようだ。労働市場が悪化しているため、FOMCは今年合計75ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利下げを実施すると予想している」と指摘した。
雇用統計は雇用者数を算出する事業所調査と、失業率および労働参加率を算出する家計調査の2つで構成される。家計調査には独自の雇用者数の指標もあり、これは1年余りで最も多い60万人近い減少となった。
失業率の上昇は、恒久的に職を失った人の増加を反映したもので、失業率はヒスパニック系米国人と高校卒業資格のない人で特に上昇した。フルタイムでの雇用を望みながらもパートタイムの職に就いている労働者の数は、ほぼ4年ぶりの高水準に達し、不完全雇用率として知られる指標を押し上げた。
労働参加率は2年ぶりの低水準となった。主に男性の参加率が低下した。25歳から54歳までの労働参加率は、83.5%で横ばい。
特にインフレリスクが再び高まりつつある中、労働力の需給が賃金上昇にどのような影響を与えるかについてもエコノミストは注目している。平均時給は0.3%増と、前月の0.4%増から伸びが鈍化した。
新規失業保険申請件数は新型コロナ流行前の水準に近いが、ゴールドマン・サックス・グループやウォルト・ディズニーなどの大手企業が最近、大幅な人員削減を発表したことから、今後は申請件数が増加に転じる可能性もある。連邦政府によるレイオフの波及効果も相まって、今後数カ月の失業率はさらに上昇する可能性がある。
雇用と就業時間、時給を組み合わせた指標で、総労働所得の代替指標となる週平均給与総額は、過去3カ月に年率換算で2.9%増加した。これは2020年に急減した後の回復局面では最も低い伸び。
悪天候により就労ができなかった人は40万4000人と、2月としては過去4年で最多となった
外国生まれの労働者の失業率は2021年以来の高水準に並んだ。
統計の詳細は表をご覧ください。
原題:US Job Market Softens With Higher Unemployment, Moderate Hiring(抜粋)
(統計の詳細やコメントを加え、更新します)
--取材協力:Chris Middleton、Mark Niquette、Matthew Boesler.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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