米国では今後10年間に数多くのメガイベントが予定されている。

今年9月にはゴルフのライダーカップ、2026年6月に国際サッカー連盟(FIFA)男子ワールドカップ(W杯)、同年7月の米建国250周年、さらに大きなイベントとして28年のロサンゼルス夏季五輪・パラリンピック、34年のソルトレークシティー冬季五輪・パラリンピックが控えている。

非営利団体の全米旅行産業協会(USTA)によれば、今後4年間に予定されているイベントだけで、4000万人の来訪者と950億ドル(約14兆2000億円)の収入が見込まれる。

しかし、USTAが19日に発表した90ページにわたる白書によると、米国はこうした空前の需要に十分対応できる状態にはなく、状況を改善させるため旅行インフラに100億ドルを超える戦略的投資が必要だ。

USTAのジェフ・フリーマン最高経営責任者(CEO)は米連邦議会議事堂で開催されたメディア向け説明会で、「必要なレベルに達していないことを非常に懸念している」と語った。

米国は依然として最も人気の高い旅行先であるものの、海外からの訪問者数が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以前の水準に回復していないという点で、先進国の中ではまれな例外だと指摘した。

同氏によれば、その理由は明らかだ。「米国の旅行システムは資金不足であり、リソース不足であり、大胆な決断力のあるリーダーシップが欠如している」という。

行動を起こすための時間は限られているとフリーマン氏は主張。インフラ改善に向けて迅速かつ断固とした行動を起こさなければ、米国は歴史的な機会を逃し、世界の競争相手にさらに後れを取ることになる。

米国は既に400億ドルの旅行貿易赤字を抱えている。米国人が海外で使う金額が、外国人が米国で使う金額を上回っているということだ。

USTAの白書は、米国の主要旅行専門家の1年間の分析をまとめたもので、同協会の「安全でシームレスな旅行委員会」が作成した。

同委員会の委員長であるケビン・マカリーナン氏は、第1次トランプ政権で国土安全保障長官代行を務めた。

「ワンストップ・セキュリティー」

第2期トランプ政権は現在、連邦政府機関の縮小を進めているが、USTAの最優先の提言は、旅行に関する問題の解決を図る新たな作業部会の創設だ。

ホワイトハウスの高官が率いるこの作業部会は、航空管制インフラのシステム全体にわたるアップグレードを含め、米国における旅行体験全体を監督する。

作業部会の管轄事項には、運輸保安局(TSA)の「ワンストップ・セキュリティー」プログラムの長期的承認も含まれる。

このプログラムにより、一部の国際線利用者は米国に到着後、乗り継ぎ便に乗り換える場合でも、最終目的地まで手荷物を預けたままにすることができる。通常、旅行者は手荷物をいったん受け取って税関を通過し、再度預け直す必要がある。

ロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港(1月7日、旅客機と軍用ヘリコプターが空中衝突した事故の数週間前)

この計画には、空港のセキュリティー設備更新に100億ドルを投資することも含まれる。これにより、乗客および手荷物のID確認と空港スキャナー用の新技術が導入される。小さな容器に詰めた液体の身の回り品や電子機器の取り出し、靴やベルトの着脱は、全米で過去のものとなるだろう。

フリーマン氏は、トランプ大統領から観光インフラ投資に前向きな感触を得ているという。「大統領は米国での大会をW杯の金字塔、史上最高の五輪にすると明言している。その目標を達成するには、投資を行う必要がある」と同氏は述べた。

時代遅れのインフラに加え、米国へのインバウンド旅行の最大の阻害要因はビザ(査証)だとフリーマン氏は説明。インドでは米国ビザの面接予約を受けるまでに400日、コロンビアでは700日もかかる場合があり、この遅れは米国の国際競争力を損なっている。

トランプ政権、または連邦議会がこの報告書の提言のいずれかに取り組むかどうかは不明だ。これまでのところ、同政権は規制緩和と老朽化した米国の航空管制システムを新しくすることに交通政策の優先事項としている。

提言を実行に移すならば、急を要するだろう。「説明会を開催し、場合によっては議会公聴会を求めるかもしれない」と、USTA広報・政策担当バイスプレジデントのトリ・バーンズ氏は話した。

原題:US Travel Sounds Alarm on Readiness to Host World Cup, Olympics(抜粋)

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