(ブルームバーグ):「ゲームを始めるまでに全てを手に入れた」。ヒップホップアーティストの「Kxtz」はかつてラップでそう歌った。
ジョークではなかった。彼の本名はカイル・ラトニック。ウォール街の大富豪で、トランプ米政権の商務長官に就任したばかりのハワード・ラトニック氏の長男だ。
ハワード氏は上院での長官指名承認に伴い、投資銀行キャンターフィッツジェラルドの最高経営責任者(CEO)を退任。ブローカーで上場しているBGCグループのCEOと会長も辞めた。
そして、次男のブランドン氏(27)はキャンターの会長となり、長男のカイル氏(28)は執行副会長に就いた。
キャンターは暗号資産(仮想通貨)分野で広範囲にわたる業務を展開。テザー・ホールディングスと提携しており、ラトニック兄弟はこのセクターでも重要な役割を担うことになりそうだ。
今回の人事は同時に、実力主義とされるウォール街に新たな王朝が始まることも意味する。ハワード氏は商務長官として関税や貿易に関する重要な決定を行うが、こうした政策がキャンターの取引や顧客に影響を与え得ることから、ラトニック家の事業グループ支配が強まる可能性がある。
ハワード氏と仕事をしたことがある人によると、同氏は家族やキャンターの法律顧問ら最も親しいアドバイザーを除き、ほとんど誰も信頼していないという。
キャンターの広報担当者は18日の発表資料に記された以外のコメントは控えた。
ウォール街で特異な位置を占めているのがキャンターだ。大手銀行と比較すると規模は小さいが、そのため小回りが利く。独特な存在感を示し、大手のライバルが撤退した分野に参入することが多い。
他の投資銀行が暗号資産ビジネスに懐疑的な態度を崩さない中で、ハワード氏はこの分野の担当チームを拡大し、会議を主催。仮想通貨テザーの裏付けとなっている米国債も保有している。
キャンターは他にも、2021年の特別買収目的会社(SPAC)ブームにおけるSPAC買収や、大手金融機関からのトップトレーダーの採用など大きな賭けに出ている。22年に亡くなった元ドイツ銀行共同CEOのアンシュー・ジェイン氏はキャンターでキャリアを終えた。
兄弟
父親よりもずっと長身のブランドン氏はキャンターでテザーと仕事をしてきた。
同氏は19年夏に系列の商業不動産会社ニューマーク・グループでアナリストとして短期間勤務した後、プライベートクレジット会社オーク・ヒル・アドバイザーズで夏季インターンシップを経験した。
ブランドン氏は最近、キャンターのSPAC2社のCEOに就任している。
カイル氏は16年にBGCの外国為替オプションデスクでインターンを務めた。18年にはスクーター・ブラウン氏のタレント事務所でインターンとして働き、その後ニューマークのアソシエートとなった。21年に同社のフレキシブルオフィス事業部門ノーテルに入り、昨年グローバルマネジングディレクターに昇進した。
音楽配信のスポティファイでは、カイル氏の経歴が紹介されている。ヒップホップとエレクトロニックダンスミュージックを融合させたDJで、ラッパー、歌手、ディレクター、マネジャー、ナイトライフの立役者と紹介されている。
ブランドン氏は最近、イーロン・マスク氏の航空宇宙企業スペースXの大型宇宙船「スターシップ」の前で父親と撮った写真をSNSに投稿した。このロケットは先月テキサス州で試験飛行を行った。
カイル、ブランドン両氏は年間約6万5000ドル(約980万円)の学費がかかるニューヨークのエリート私立校ホーレス・マン・スクールに通っていた。同校では父親が理事を務め、18年に「ラトニックホール」と呼ばれる科学・共同研究棟がオープンしている。
兄弟は共にスタンフォード大学を卒業しており、同大のウェブサイトによると、2人の両親は奨学金プログラムに「多大な支援」を提供している。
原題:Lutnick Shapes Wall Street Dynasty With DJ and Trader Sons (1)(抜粋)
--取材協力:David Gillen.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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