買収提案やアクティビスト(物言う株主)の保有を材料に株価が上昇するケースが増え、ファンダメンタルズに着目した日本株のロングショートは戦略の練り直しを余儀なくされている。

東京証券取引所が公表する空売り比率の60日移動平均は40.6%と、2024年7月以来の低水準だ。ショートポジションは減少傾向にある。

東証や経済産業省が企業価値の向上を促し、アクティビストの株式保有や企業の合併・買収(M&A)が活発化している。これらは株価の押し上げ要因である一方、ショートポジションを持つ投資家は予期せぬ急騰でダメージを受ける。こうした事態を避けて投資リターンを積み重ねるには、財務や株主構成の分析が一段と重要になっている。

JPモルガン証券の高田将成クオンツストラテジストは、自社株買いなど資本効率の改善を背景にした株価の動きで、業績やバランスシートの弱さを材料にしたショートが難しくなったと話す。市場変動の影響を抑える一部のロングショート戦略では、ショートが充分に構築できないことによりロングで取れるリスクも限定的になると指摘した。

ショートは苦杯をなめている。スパークス・アセット・マネジメントの春尾卓哉ファンドマネジャーは、ファンダメンタルズから株価の下落を見込んでショートしても、財務状況や株主構成によってはアクティビストの買いの対象になり、株価が上昇してしまうことがあると語る。昨年12月に日産自動車とホンダの経営統合が報じられた後、ショートしていた自動車株3銘柄のうち2銘柄を買い戻したと言う。

ブルームバーグのデータによると、同氏が運用する「スパークス・日本株・ロング・ショート・ファンド」は昨年のトータルリターンが3.1%。東証株価指数(TOPIX)の20%を下回る。

ショートNG株

ショート候補銘柄の選択は難しくなっている。シグモイド・キャピタルのウェンディ・チェン最高投資責任者(CIO)は、株価純資産倍率(PBR)が低くアクティビストを引きつけやすい自動車株のショートを避けていると明かす。

UBPインベストメンツのファンドマネジャー、ズヘール・カーン氏は、従来対象としていたキャッシュリッチ企業や不動産の含み益が多い企業のショートをやめ、代わりに、買収されそうな企業をロングポジションで保有。うち3社は、過去7カ月間で株式公開買い付け(TOB)の対象になった。「以前ならショートした銘柄も、今はロングの候補になる可能性がある」と話す。

スパークスの春尾氏も、M&Aをロングポジションの好機と捉え、昨年12月にセブン&アイ・ホールディングスを買い始めた。カナダのコンビニエンスストア大手アリマンタシォン・クシュタールによる買収か創業家によるMBO(経営陣が参加する買収)成立が株価上昇要因で、これらが頓挫しても、構造改革によりダウンサイドリスクはアップサイドを下回るとみる。

また、割高な優良株は依然としてあり、ロングからショートを差し引いたネットポジションは維持するとしている。

「長期的に有望な銘柄があればロングポジションを取るのが良いが、ショートポジションをどうするかという問題が常に生じる」とJPモルガンの高田氏は述べ、「ロングショートヘッジファンド戦略によるうまみのマネージメントが難しくなる可能性は残る」と話した。

--取材協力:田村康剛、Joanne Wong、アリス・フレンチ.

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2025 Bloomberg L.P.