3.新入社員が「主体性」と「規律性」を併せもつために

冒頭に紹介した「新入社員が仕事をする上で特に大事にしたい社会人基礎力」を調査した東京商工会議所は、「入社前研修や新入社員研修等において規律性に関する内容を取り扱い、新入社員に規律性の重要性に関する理解を促進すること」が必要であると指摘しているが、企業にはZ世代の新入社員に関する様々な背景があることを認識した上で適切に対応することが求められる。

入社前研修や新入社員研修は、各企業が創意工夫を凝らして実施しているが、たとえば、前述のようにZ世代が主体的に学び課題を解決するという教育を受けていることをふまえ、「プロジェクト学習(Project Based Learning:PBL)」を取り入れ、チームで主体的に取り組むことができるプロジェクトを設定することも考えられる。新規事業のアイデアを企画・発表するプロジェクトなどを通じて、チームワークとコミュニケーションスキルの向上を図り、他者と協働することで自己管理能力を育むことができる。

また、年次の長い社員が新入社員の指導担当を務める「メンター制度」や、上司と部下による定期的な「1 on 1ミーティング」なども効果的だろう。個々の目標設定、課題の相談、フィードバックを行うことにより、Z世代の新入社員は自己改善点を把握するとともに、期限内に完遂すべきタスク管理も図ることができる。

加えて、オープンな企業文化を醸成することも重要である。社員が意見を自由に言える環境を作り、上司や同僚との建設的な対話を通じて課題を解決できるようにする。そうすれば、新入社員が主体性を持ちながらも企業の規律に沿う姿勢を育てることにつながるだろう。社内SNSやアイデア投稿システムなど、互いの意見を共有できるプラットフォームを提供することで、社員同士のコミュニケーションも促進することが期待される。

規律性は組織で働くうえで必要な要素ではあるが、新入社員に対して丁寧なコミュニケーションを取らずに規律性を強調し過ぎると、主体性を重んじるZ世代の特性に合わなくなり、早期離職を招く恐れもある。企業は、Z世代が育ってきた社会状況やその特性を十分把握した上で、新入社員が主体性と規律性の双方をバランスよく身につけていく仕組みや社内風土を整備することが求められる。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 主任研究員 西野 偉彦)