【建築基準の改正の検討や危険地域からの撤退も進められている】
(1) 建築基準の改正
通常、建築基準の変更は、建物の再設計を行ったり、建築に異なる材料を使用したり、異なる施工方法を適用したりするなど、建設会社に追加の費用負担を求める形となる。そしてそれは、将来的には消費者に転嫁されるものと考えられる。
一般に、何らかの理由で、基準の変更に反対する声が地域住民から出てくる。そのため、実際には、変更を地方や州レベルで可決させることは難しいことが多い。仮に、「いまはまだ生じていないが、気候変動問題によって将来起きるかもしれない被害を、未然に防いだり軽減したりするために建築基準を変更する」といった取り扱いを行うとなれば、この問題はより困難さを増すものとみられる。
(2) 危険地域からの撤退
コミュニティが、自ら率先して住民の撤退プログラムを求めているケースがある。有名なものとして、ニュージャージー州で行われている「ブルーエーカープログラム」が挙げられる。これは、河川の氾濫原地域に住む住民から土地を買い取って、オープンスペースとして市民のレクリエーション等に役立てる。ハリケーン等により河川の氾濫リスクが高まった場合には、この土地がリスクの緩衝の役割を果たす。土地買取りの促進のために、連邦政府から資金提供などが行われている。
また、連邦政府の再建政策にも変化が生じている。FEMA(米国連邦緊急事態管理庁)は、繰り返しの損失や50%以上の損傷を受けた家を再建するための資金を提供しないようになっている。家の所有者がFEMAやHUD(住宅都市開発省)の資金を使って撤退した場合、残された土地に建設することはできず、自然に戻さなければならない、とされている。
本記事では、アメリカでの保険の“3つのA”をめぐる動きを中心に、気候変動による自然災害への対応について概観した。
さまざまな取り組みが行われており、保険業界でも保険を通じてその取り組みに協力することが求められている。
このような動きは、今後日本でも広がっていく可能性がある。引き続き、アメリカをはじめ、各国の取り組みに注意していくことが必要と考えられる。
(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也)