テクノロジー覇権を争う米国と中国がもたらす混乱と分断は、消費者にとってこの業界がどのようなものになるかについて、再考を迫っている。

米国防総省は6日、中国人民解放軍とのつながりが疑われるとして、テンセント・ホールディングス(騰訊)を「中国軍事企業」リストに追加した。

ラスベガスで先週開催されたテクノロジー見本市「CES」に参加した多くの業界関係者が、このニュースを耳にした。CESには通常、洗濯物をたたむロボットや空飛ぶ車など、テクノロジーによるユートピア的未来の夢を描く企業が集まる。

今年のCESには、米中間の緊張にもかかわらず、米市場への参入を目指し1200社を超える中国企業が参加。出展した約4500社の4分の1以上を占める最大の海外勢となった。

人工知能(AI)半導体で世界をリードする米エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)はオープニングナイトで情熱的なスピーチを行った。幅広い製品のアップデートも披露し、注目を集めた。

そのエヌビディアに対し、中国の独占禁止法当局は先月、調査を開始している。私の脳裏に浮かぶのは、フアン氏がロボットや自動運転車があふれる未来のビジョンを提示する中で、次にどの企業が巻き添えを食うことになるのか、あるいは、中国のサプライチェーンや材料なしでこれら最先端のハードウエアがどのように製造され得るのかという疑問だ。

退陣間際のバイデン政権によるテンセントのリスト追加は、同社に対する制裁や罰則を伴うものではない。しかし、それでもテンセントの株価は下落した。

ソーシャルメディアのレディットやゲームソフトメーカーのエピックゲームズといった米国のよく知られた新興企業に投資してきた世界最大のゲームパブリッシャーであるテンセントの評判を大きく損ねた措置だったのは間違いない。

もぐらたたき

バイデン政権の決定は、さらなる怒りを引き起こすだろう。中国政府が報復として、消費者向けのテクノロジーを扱う米企業を狙い何も動きを見せなければ、むしろ驚きだ。

また、予期せぬ結果として、不当に攻撃されていると感じた中国が自国企業への支援を拡大し、米国が維持しようとしている優位性がさらに低下する可能性もある。米政府が非難した華為技術(ファーウェイ)や中国の半導体メーカーを、中国政府が手助けしているのは周知の事実だ。

テンセントのリスト追加は、別の意味でも裏目に出るリスクがある。

中国のテクノロジー企業を標的にする理由として、米国は国家安全保障上のリスクを振りかざしてきたが、政権幹部が必ずしも明確かつ具体的にそれが何かを説明してきたわけではない。

国防総省も、テンセントが中国軍と協力していることを示す領収書などは公開していない。公表の必要もないだろうが、国家安全保障と消費者向けテクノロジーがどのように交差しているのかを見極め理解することは難しくなっている。

中国のスマートフォンメーカー、小米は2021年、中国軍とつながりがあるとされたことから、米政府をワシントンの連邦地裁に提訴した。だが、その後、米政府は同社を国防総省のリストから除外することで合意した。

その合意に至る前、連邦地裁の判事は小米がリストに掲載された理由には「深刻な欠陥がある」と指摘。軍事に利用可能な第5世代(5G)移動通信とAIに小米が投資していたことが理由とされたが、当時は誰もがそうした投資を行っていた。

他のリスクも挙げられていた。同社の創設者が中国政府が関係する賞を受賞したことだ。だが、この賞はチリソースメーカーの起業家を含む百人以上に授与されていた。

テンセントは米政府によるリスト追加は「明らかな間違い」だと反論。同社はリストからの除外を求め米政府に対し訴訟を起こすか、あるいは何らかの取り決めを結ぼうとするだろう。

米政府は敵対する国がイノベーション(技術革新)で優位に立つことを望んでいないと明確にしているが、中国のテクノロジー産業を妨害する「もぐらたたき」的なやり方は最下位を争うような底辺への競争を加速させるだけだ。特に国家安全保障の問題だと言うのであれば、もっとずっと戦略的であるべきだ。

次期政権

CESではまた、別の皮肉な状況も見られた。中国企業が米国での市場開拓を目指しCESに大挙して参加した理由の一つは、中国国内の事業環境悪化だ。

政府によるインターネット業界締め付けや景気悪化は、中国の新興企業には大打撃だ。特に国内消費者の節約志向が強まる中、起業家を鼓舞する要因が増えているようには見えない。

米国は、自由市場のテクノロジーエコシステム(生態系)がイノベーションの優れたエンジンであることを世界に示す途上にある。 国家安全保障という旗印の下で、その対象範囲を広げ、不透明かつ穴だらけの攻撃を中国のテクノロジー企業に仕掛けることは、米国の信頼を損ねるだけだ。

トランプ次期政権は、関税や労働者階級の苦境を中国のせいだと主張し事態を悪化させる前に、何を達成したいのかをよく考えるべきだ。

「米国第一」に焦点を絞った混乱した分断は、中国を勢いづかせるだけであり、米国の消費者向けテクノロジー産業を阻害することになる。

(キャサリン・トーベック氏はアジアのテクノロジー分野を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。CNNとABCニュースの記者としてもテクノロジー担当しました。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:US-China Tech Split Is a Race to the Bottom: Catherine Thorbecke(抜粋)

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