(ブルームバーグ):合併裁定戦略を手がける投資家は、買収案件の遅延や阻止が相次いだ1年で打撃を受けたこの戦略をトランプ次期米政権がよみがえらせることを熱望している。
米連邦取引委員会(FTC)のカーン委員長が反トラスト法(独占禁止法)を理由に一連の企業買収阻止を積極的に推し進める中、投資家は今年、高級ファッションブランドを展開する米タペストリーによる同業カプリ・ホールディングス買収や米スーパーマーケットチェーン大手クローガーによる同業アルバートソンズ買収など、FTCに阻止された一連の案件で苦汁をなめてきた。
案件阻止により合併裁定ファンドが痛手を受けた今年、合併裁定戦略のリターンは11月まででプラス3.3%と、ブルームバーグが追跡している30余りのヘッジファンド戦略の中で最悪となっている。

だが、米利下げを受けて2024年に回復が見られたM&A(企業の合併・買収)市場は見通しが明るくなりつつあるというのがコンセンサスだ。
トランプ氏の企業寄りのアプローチに加え、FTCと司法省におけるトップ刷新がより大型のM&Aへの道を開くと期待されており、合併裁定戦略にとって追い風が吹く可能性が高まっている。
アルティ・ティーデマン・グローバルのTIG合併裁定戦略ポートフォリオマネジャー、ドリュー・フィグドール氏は「壮大な機会が待ち受けている可能性がある」とし、潜在的な案件が実現しなかった過去4年間を経て「大量の案件が生まれる」と予想。トランプ氏が米大統領に返り咲き、反トラスト問題を取り扱う当局者が一新されるため、これまでとは逆になるとの見方を示した。
11月の米大統領選以後、すでに買収が相次いでいる。今月23日には米高級百貨店ノードストロムが創業家の買収による非公開化を発表した。

もちろん、合併裁定戦略を採用する投資家にとって重要なのは、買収案件の増加に加え、より多くの案件が成立に至るということだ。
ブルームバーグがまとめたデータによると、米国で発表された取引額は今年11%増加し、10年ぶりの低水準だった昨年から回復。しかし、規制当局も合併に対する監視を強化しているため、合併裁定取引のパフォーマンス改善にはあまり寄与しなかった。
二極化緩和か
UBSセキュリティーズのスペシャルシチュエーション・アドバイザリー責任者、エブレン・エルギン氏のデータによれば、FTCから2度目の要請を受け当局が徹底的な調査を実施した案件のうち、FTCが最終的に買収阻止に向けて訴訟を起こしたのは約30%となった。
エルギン氏は、こうした割合は過去最高水準で推移しており、1998年以降の割合の約3倍に達していると述べた。
市場関係者によると、こうした数字の変化は以前の政権が買収阻止の回避に向けた交渉に積極的で、資産売却などの条件を付けて問題のある一部の取引を成立させていたことを示しているという。
エルギン氏は「今後は結果の予測可能性が高まるだろうが、投資家は自信を取り戻す前にいくつかのテストケースで様子を見る必要があるかもしれない」とコメントした。
また、取引スプレッドが変化する可能性も指摘。バイデン政権では度重なる合併阻止により、大型案件ではスプレッドが長期にわたり拡大したままとなった一方、大きな問題を引き起こさなかった案件ではスプレッドがかなり狭まったとし、このような二極化は緩和される可能性が高いとの見方を示した。

とはいえ、反トラスト法の執行が完全に逆転することを期待すべきではない。ブルームバーグ・インテリジェンスのジェニファー・リー氏は、この分野でのトランプ氏の人選に見られるポピュリスト的な傾向は、テクノロジー大手や他の特定の業種に対する積極的な監視が依然としてあり得ることを意味していると述べた。
さらに、適用される監視レベルはトランプ氏の案件に対する見解によって変化し、市場を驚かせるリスクがあると言及。例えばトランプ氏の政権1期目で司法省がAT&Tによるタイム・ワーナー買収を阻止するために提訴したことを挙げた。
原題:Merger-Arb World Sees Bottom-Dwelling Trade Reviving Under Trump(抜粋)
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