これまでの異次元緩和からの脱却のペースは想定以上に早かった

ここで、重要なのは当初の想定では24年末くらいに「多角的レビュー」を公表し、それをきっかけに異次元緩和の脱却を進めていこうというスケジュール感だった可能性が高いということである。今から考えれば非常にゆっくりな変化のように思われるが、筆者もマイナス金利の解除は非常に難しいと、当時は考えていた。そのように考えると、異次元緩和からの脱却(普通の金融政策に向けた動き)はかなり急ピッチで進んできたと言える。円安圧力への対応が必要ない場合(時間的余裕がある場合)、植田総裁は市場が考えている以上にゆっくりと利上げを進めていくべきだと考えている可能性がある。少なくとも、今回の植田総裁のハト派会見からは日本経済の状況に鑑みて利上げを急ぐべきというニュアンスは伝わってこなかった。再び円安対応のために仕方なく利上げの「弾」を使うことになる可能性は十分にあるが、そうでなければ利上げはゆっくりと進んでいくことになりそうである。

利上げのタイミングが遅れ、結果的にターミナルレートは低水準になる可能性が高い

具体的な政策パスについて、筆者は以下の3つを想定している (カッコ内の数字は筆者が想定する確率)。

(1)1月利上げを目指しながらも断念、4月利上げで打ち止めへ(50%)
(2)1月利上げを強行して波乱相場、利上げは早期打ち止めへ(30%)
(3)1月利上げに成功し4月再利上げ実施、7月が分かれ目(20%)

植田総裁は決定会合後の記者会見で利上げを見送った背景について、「来年の春季労使交渉に向けたモメンタムなど、今後の賃金の動向についても少し情報が必要と考えています」「米国をはじめとする海外経済先行きは引き続き不透明であり、米国の次期政権の経済政策をめぐる不確実性も大きい状況が続いていると判断しています」とした。国内経済だけをみて今すぐに利上げが必要という状況ではない一方で、米国の政策の動向を見極めたいということだろう。

市場では今回利上げをスキップしたとしても、25年1月に利上げをすることになるという見方が多かったが、1月利上げについて植田総裁は「1月会合であればもちろん支店長会議の結果も参考にするということになりますが、そこまでにそれぞれある程度の情報は出ていると思いますが、それを参考にしつつ1月の決定はするということで、そこは総合判断にならざるを得ないと思います」「春闘のモメンタムについて次回会合までにある程度の情報は入ると思いますけれども、これも繰り返しですが、大きな姿が分かるのは例えば3月とか4月とか、そういうタイミングになると思います」とし、あまり積極的な印象ではなかった。トランプ氏の政策についても「春闘についてもトランプ新政権の政策についても、相当長い期間見ないと全体像が判明しないということだと思います」と、1月に動くというよりは、待つことが優先されているようである。

他方、待ちすぎてビハインド・ザ・カーブになるリスクについては「待っている間に、ビハインド・ザ・カーブになるというリスクがあるわけですが、当然そういうリスクを考慮した上で、そこで例えば利上げをしないという判断をするのであれば、利上げを判断しないで大丈夫かどうかということを考えて決定しますということでございます」と述べた。これは、円安のリスクが高まるなど、他のリスクが生じれば動くということだろう。引き続き、待ち続けることで利上げのタイミングが遅れていく可能性が高いと、筆者は予想している。