高額化する介護施設の入居費用、規制に乗り出す政府

こういった背景には、介護政策のあり方の影響が大きいであろう。例えば、北京市では「9064」として、在宅で家族による介護を全体の90%、地域住民で構成する社区での介護を6%、施設介護を4%とし、目安としている。また、上海においては「9073」として、在宅介護を90%、社区での介護を7%、施設介護を3%としている。介護政策として在宅介護を中心とし、社区でのデイサービスや施設利用、施設介護は1割ほどにとどめようとしているのだ。ただし、調査によると、施設介護については介護政策における3-4%の利用を上回る7.7%と需要がある点もうかがえる。

調査では、施設介護を利用するにあたって、負担可能な費用についても聞いている。それによると、毎月支払える費用としては1,000元未満(約20,000円)とする回答が46.1%と最も多かった。都市・農村の地域別でみると、都市部では毎月1,000元から3,000元以上まで分散しているが、農村については1,000元未満が全体の75.3%を占めており、最高額の毎月3,000元以上となると、わずか1.8%にとどまってしまう。なお、調査によると、高齢者の平均年収は32,027元(中央値は11,400元)で、地域別で都市の高齢者の平均年収は47,271元(中央値は28,800元)、農村の平均年収は14,105元(中央値は5,640元)と収入の格差は大きく、負担できる金額にも大きな格差が発生してしまう。

施設介護にどれくらいの入居費用が必要なのかについては、例えば「北京市介護施設業務発展報告」によると、北京市の介護施設の月額の平均入居費用は6,611元となっており、これにはベット、食事、介護に関する費用が含まれている。北京市の月額平均入居費用を年換算すると、2023年の北京市の平均可処分所得(81,752元)に相当する金額となる。要介護の度合いによっては必要となる費用が異なるが、1,000元未満では到底入居できる状況にはないであろう。

ただし、介護施設への入居に関する費用の高騰については、政府も規制に乗り出している。背景には、介護施設への入居にあたって、施設側が入居契約の年数に応じて事前に高額なデポジット(一時的な預り金、保証金)を求めたり、更に、入居後もデポジットを返還しないといった問題や、毎月高額な入居費用の請求をするなどの問題が散見されているからである。2024年5月、民生部など関係当局は、介護施設の入居前費用の監督管理の強化に関する指導意見を発出し、デポジットの金額に制限を設けること(月額のベット代の12倍まで)や必要に応じた返還に従うよう求めている。